Column開発体制・外部人材
エンジニア不在で始める開発チーム立ち上げの4段階
Authorこの記事を書いた人

株式会社Riize Advisors 代表取締役
細倉 尚将
外資系コンサルティングファームにてM&A戦略・新規事業立案等に従事した後、株式会社Riize Advisorsを創業。コンサルタントとエンジニアのチームで、AI・システム開発を構想から実装・運用まで支援している。
「自社のサービスや業務システムを内製したいが、社内にエンジニアが一人もいない」「採用を始めたものの、誰を採ればよいのか、応募者の技術力をどう評価すればよいのか分からない」「外注先との契約を終える予定があり、それまでに開発チームを用意しなければならない」。この記事では、社内にエンジニアがいない状態から開発チームを立ち上げるときに最初に決めること、立ち上げの4つの段階、人の集め方と見極め方、最初の3か月で整えるもの、失敗しやすい点を順にお伝えします。
エンジニア不在の会社が開発チームを持つ難しさ
開発を内製したいと考える企業は増えていますが、実際に進めるうえでの壁は人です。IPAのDX動向2025では、システム開発の内製化を進めている企業に課題を尋ねたところ、日本では「人材の確保や育成が難しい」の回答率が突出しており、人材不足のために内製化が進まないケースが非常に多いと分析しています。同じ報告書では、DXに取り組む日本企業で最も不足している人材は「ビジネスアーキテクト」、つまり目的の設定から導入、導入後の効果検証までを、関係者をまとめながら一貫して進める人材だとされています。
人材の量の不足も続いています。DX動向2026によると、DXに取り組む企業のうち、DXを推進する人材の「量」が「やや不足している」「大幅に不足している」と答えた企業は、2025年度の調査で合わせて85.5%でした。
社内にエンジニアがいない会社にとって、この不足は二重の意味を持ちます。一つは、採用市場でエンジニアを集めにくいことです。もう一つは、より深刻な問題で、応募者や外部の提案を技術的に評価できる人が社内にいないことです。誰が優秀なのか、提示された設計や見積りが妥当なのかを判断できないまま人を集めると、人数はそろっても開発が前に進まない状態になります。
最初に決める2つのこと
人を集め始める前に、次の2つを決めておきます。
何を自社で握り、何を外部に任せるか
すべてを社内のエンジニアで作る必要はありません。むしろ最初から全部を内製しようとすると、必要な人数も技術の幅も大きくなり、立ち上げに時間がかかります。自社で握る部分と、外部に任せる部分を分けて考えます。
| 区分 | 主な対象 | 考え方 |
|---|---|---|
| 自社で握るもの | 事業の中心になるサービス、業務の進め方そのものを表すシステム、何を作るかの優先順位 | 変更が頻繁に起き、事業の判断と直結するため、社内で決めて社内で直せる状態を目指します |
| 外部の力を借りるもの | 立ち上げ期の設計やマネジメント、特定の技術の専門家、一時的に増える開発量 | 社内に人がそろうまでの間、経験のある人に担ってもらい、やり方を社内に移していきます |
| 既製品で済ませるもの | 会計・勤怠・経費精算など、どの会社でもほぼ同じ業務 | パッケージやSaaSを使い、開発の対象から外します |
この線引きは、後から変えてもかまいません。大切なのは、開発チームに何を期待するのかを、経営者と事業責任者が言葉にしておくことです。ここが曖昧なまま人を集めると、「何でもできるエンジニア」を探すことになり、採用も評価も難しくなります。
技術判断の責任者を誰にするか
もう一つは、技術に関する判断の責任者を決めることです。どの技術で作るか、設計が妥当か、どの作業を先にやるか、応募者のスキルが十分か、外部からの提案や見積りをどう評価するか。こうした判断を下す役割が、開発チームには必ず必要です。
社内にエンジニアがいない場合、この役割を担える人も社内にいません。判断できる人がいないこと自体が、立ち上げで最大のリスクです。選択肢は大きく次の3つです。
- 経験のあるテックリードやエンジニアリングマネージャーを、最初に正社員として採用すること
- 立ち上げ期だけ、外部のPMやテックリードに判断役を担ってもらい、その間に社内の責任者を採用・育成すること
- 社内の事業責任者が最終的な決定者となり、技術面の評価は外部の専門家に助言を求めること
最初の方法が理想ですが、こうした人材の採用には時間がかかることが多く、採用が決まるまで何も始められないという状況になりがちです。現実には、2つ目と3つ目を組み合わせ、社内の決定者と外部の判断役を置いて走り出し、社内の責任者の採用を並行して進める形が取りやすくなります。その場合も、最終的に何を作るかを決めるのは自社であることを、役割分担として明確にしておきます。
立ち上げの4つの段階
開発チームは、一度に完成形を作るのではなく、段階を踏んで大きくしていきます。
| 段階 | 主な体制 | この段階でやること | 次へ進む目安 |
|---|---|---|---|
| ① 少人数での開始 | 外部のPM・テックリードと、少人数のエンジニア | 作るものの優先順位を決め、小さく作って動かします | 開発の進め方が回り始め、成果物が出ていること |
| ② 仕組みの整備 | ①の体制に、必要な役割を足します | 開発のルール、アカウント、ドキュメントの置き場所を決めます | 新しく入った人が、ルールに沿って作業を始められること |
| ③ 採用と並行した増強 | 外部メンバーと、採用した社員の混成 | 開発量に合わせて人を増やし、社員を採用して受け入れます | 社員が主要な機能の開発や判断に関わっていること |
| ④ 社内への移行 | 社員が中心になり、外部は必要な部分を担います | 判断と知識を社内に移し、外部の役割を絞ります | 社員だけで、優先順位の判断と日々の開発が回ること |
① 外部のPM・リードと少人数で始める
最初は、経験のあるPMやテックリードを中心に、エンジニア数名の小さな体制で始めます。いきなり大人数を集めても、何を作るかの優先順位と開発の進め方が決まっていなければ、指示を待つ人が増えるだけです。
この段階では、作るものを絞ります。最初に作る機能や、最初に置き換える業務を一つ決め、小さく作って実際に使ってもらうところまで進めます。外注からの切り替えであれば、既存システムの引き継ぎもこの段階の大きな仕事です。引き継ぎで確認すべき項目は開発ベンダーとの契約終了と引き継ぎの進め方で詳しく扱っています。
② 仕組み・ルールを整える
小さな体制で開発が回り始めたら、人が増えても混乱しないための仕組みを整えます。具体的な中身は、後の「最初の3か月で整えるもの」の表にまとめています。この段階を飛ばして人数を増やすと、人によって作り方がばらばらになり、後から直す手間が大きくなります。
③ 正社員採用と並行して増強する
開発量が増えてきたら、外部メンバーで人数を補いながら、正社員の採用を進めます。②で仕組みが整っていれば、新しく入った社員も、外部メンバーと同じルールで作業を始められます。
採用した社員には、早い段階から設計の議論やコードのレビューに加わってもらいます。外部メンバーが作ったものを後から引き継ぐより、作る過程に関わってもらう方が、知識が社内に残りやすくなります。
④ 社内メンバーへ移していく
社員が育ってきたら、判断の役割と開発の中心を少しずつ社内に移します。外部の役割は、一度にすべてをなくすのではなく、社内に経験者がいない技術領域や、一時的に増える開発量などに絞っていきます。
この段階で問題になりやすいのが、外部メンバーの頭の中にしかない知識です。誰が抜けても困らないように、②で決めたドキュメントの置き場所に、設計の理由や運用の手順を書き残してもらいます。担当者の交代で起きる問題は、担当者の退職とシステムのブラックボックス化でも説明しています。
人の集め方:3つの方法の向き不向き
開発チームの人の集め方は、主に正社員採用、業務委託(フリーランスなど個人との契約)、開発会社のチーム参画の3つです。どれか一つを選ぶのではなく、段階に応じて組み合わせます。
| 方法 | 向いていること | 注意すること |
|---|---|---|
| 正社員採用 | 長く事業を支える中心メンバーを持つこと、知識と判断を社内に残すこと | 採用までに時間がかかる場合が多く、社内に評価できる人がいないと見極めが難しくなります |
| 業務委託・フリーランス | 特定の技術に詳しい人を、必要な期間だけ迎えること | 個人ごとに契約するため、人数が増えると管理の手間が増えます。チームとしてのまとめ役は別に必要です |
| 開発会社のチーム参画 | PMを含むチームで早く立ち上げること、人の追加や交代を任せること | 任せきりにすると知識が社内に残りません。自社側の決定者と、社内へ移す計画が必要です |
立ち上げ期は、開発会社のチームや業務委託で早く体制を作り、正社員の採用を並行して進め、段階が進むにつれて社員の比率を高めていく、という組み合わせが現実的です。
なお、契約の形(請負か、準委任などか)によって、作業の進め方や指示の出し方、成果物の権利の扱いが変わります。契約内容を決めるときは、法務部門や専門家に確認することをおすすめします。
エンジニアを見極める方法
社内にエンジニアがいない会社にとって、採用や受け入れの判断はもっとも難しい部分です。経歴書や面談の印象だけで決めると、入ってから「思っていたのと違った」となりがちです。次の方法を組み合わせて見極めます。
技術を判断できる人を面談に入れる
面談には、技術を判断できる人に必ず同席してもらいます。社内にいなければ、外部のテックリードや信頼できる専門家に依頼します。経営者や人事の担当者は、事業への関心や働き方の相性を見て、技術の評価は判断できる人に任せる、という役割分担にします。
コーディングテストや過去の成果物で確かめる
話の上手さと、実際に作れる力は別のものです。自社の業務に近い小さな課題に取り組んでもらうコーディングテストや、過去に書いたコード・設計書などの成果物を見せてもらうことで、実際の力を確かめられます。課題の内容と評価の観点は、技術を判断できる人と一緒に決めておきます。
短期間の試行期間を設ける
面談とテストを通っても、実際のチームで力を発揮できるかは、一緒に働いてみないと分かりません。業務委託や開発会社のメンバーであれば、最初は短い期間で参画してもらい、PMやテックリードのもとで仕事の進め方や成果を見てから、継続するかを決める方法があります。
私たちが開発組織の立ち上げを支援した医療系DX企業では、内製化に向けて開発ベンダーとの契約を終えたものの、社内にエンジニアがいない状況でした。コーディングテストを含む事前面談と、PMのもとでの短期間の見極めを行い、録画つきの事前面談をいつでも見られるタレントプールを用意したうえで、参画後の稼働管理や必要なときの交代・追加にも対応しました。18か月の支援の中で、PM3名・エンジニア17名、最大20人の体制を組み、正社員採用が整うまでのノウハウの蓄積と案件の進行を支えました。詳しくは支援実績で紹介しています。
最初の3か月で整えるもの
立ち上げの最初の3か月ほどで、次のものを整えておくと、人が増えても、人が入れ替わっても開発が止まりにくくなります。
| 項目 | 決めておくこと |
|---|---|
| リポジトリ(ソースコードの保管場所) | 自社名義のアカウントで持つこと。外部メンバーの個人アカウントや外部の会社のアカウントに置かないこと |
| アカウント・権限の管理 | クラウド、リポジトリ、各種サービスのアカウントを誰が発行し、退出時に誰が止めるか。管理者の権限は自社の人が持つこと |
| タスク管理 | 作業の一覧と優先順位をどこで管理し、誰が優先順位を決めるか |
| レビューのルール | コードを本番に出す前に、誰がどの観点で確認するか。一人の判断だけで本番に出さないこと |
| ドキュメント | 設計の理由、環境の構築手順、運用の手順、障害が起きたときの連絡先をどこに書くか |
とくに、リポジトリとアカウントを自社名義で持つことは、最初に必ず確認します。外部の会社やメンバーのアカウントにソースコードや管理者権限があると、契約を終えるときに引き継ぎが難しくなり、最悪の場合は自社のシステムに手を入れられなくなります。
ドキュメントは、最初から完璧なものを目指す必要はありません。「何を、どこに書くか」を決め、書く習慣をチームに根付かせることを優先します。
失敗しやすい4つの点
立ち上げでつまずく原因は、だいたい次の4つに集まります。
| 失敗しやすい点 | 起きること | 避けるために |
|---|---|---|
| 人数だけ集めて、判断役がいないこと | 作業の優先順位や設計が決まらず、人が増えても成果が出ません | 人を増やす前に、技術判断の責任者を決めます |
| 全部を外部に丸投げすること | 何が作られているか社内で把握できず、外部がいなくなると止まります | 何を作るかの決定は自社が持ち、社員が開発に関わる計画を立てます |
| 採用を急いで、見極めないこと | 合わない人が入り、チーム全体の進みが遅れます | 技術を判断できる人の面談、テスト、試行期間を組み合わせます |
| ノウハウが社内に残らないこと | 外部メンバーが抜けると、設計の理由や運用の手順が分からなくなります | ドキュメントの置き場所を決め、社員がレビューや設計に加わります |
ご相談の中でも、「まず人を集めてほしい」というご依頼から話が始まり、詳しく伺うと、技術を判断できる人がいないことが本当の課題だったという例は少なくありません。人数の前に判断役を決めることが、立ち上げを早くする一番の近道です。
開発チームで作るものが生成AIを使った機能の場合は、検証から本番運用に進むための判断も必要になります。その考え方はAIのPoC止まりの原因と本番移行の条件で説明しています。
まとめ:人数より先に、判断役と自社で握る範囲を決める
- 社内にエンジニアがいない会社の最大のリスクは、人数の不足よりも、技術を判断できる人がいないことです。
- 人を集める前に、何を自社で握り何を外部に任せるかと、技術判断の責任者を誰にするかを決めます。
- 立ち上げは、①外部のPM・リードと少人数で始める、②仕組みを整える、③採用と並行して増強する、④社内へ移す、の4段階で進めます。
- 人の集め方は、正社員採用、業務委託、開発会社のチーム参画を段階に応じて組み合わせます。
- 見極めは、技術を判断できる人の面談、コーディングテストや過去の成果物、短期間の試行期間を組み合わせます。
- 最初の3か月で、自社名義のリポジトリとアカウント、タスク管理、レビューのルール、ドキュメントを整えます。
社内にエンジニアがいない段階からの開発チームの立ち上げは、PMを含むチームでの参画や事前の見極めを含めてご相談いただけます。体制の組み方に迷われている場合は、開発体制支援の内容をご覧ください。
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