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生成AIが社内で定着しない原因と効果の測り方

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株式会社Riize Advisors 代表取締役 細倉 尚将

株式会社Riize Advisors 代表取締役

細倉 尚将

外資系コンサルティングファームにてM&A戦略・新規事業立案等に従事した後、株式会社Riize Advisorsを創業。コンサルタントとエンジニアのチームで、AI・システム開発を構想から実装・運用まで支援している。

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「全社でChatGPTを契約したのに、使っているのは一部の人だけです」「社員に聞くと、何に使えばいいか分からないと言われます」「経営会議で効果を聞かれても、数字で説明できません」。生成AIを導入した企業から、こうした声が聞かれます。この記事では、生成AIが社内で定着しない5つの原因と、それぞれへの打ち手、数か月単位での進め方、そして「チャットで使う」段階から「業務の仕組みに組み込む」段階へ進むときの考え方をお伝えします。

生成AIの「導入」と「定着」は別のもの

生成AIを使える環境を整えることと、社員が日々の業務で使い続け、成果につながることは、別のことです。公的な調査でも、この差ははっきり表れています。

IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2026」は、国内企業の経営層またはICT関連部門を対象に2026年4月中旬から6月中旬にかけて行われ、1,799社から有効回答を得た調査です。この調査で生成AIを「導入している」と答えた企業は44.0%で、前回調査の22.6%から大きく伸びました。

一方で、生成AIを導入・試験利用・検討している企業に組織での利用状況を尋ねると、次のような結果でした。

組織での利用状況回答率
「個人で業務利用している」63.3%
「個人や部署で試験利用している」44.8%
「全社的なサービスに組み込まれている」18.6%
「部署の業務プロセスに組み込まれている」11.9%

報告書は、生成AIの利活用は個人利用・試験利用が中心で、組織的な利活用に至っている企業はまだ少ないとまとめています。また、AIを導入・試験利用している企業のうち、効果が「期待以上」または「期待どおり」だったのは合計31.8%で、「一定の効果はあった」が50.6%と最も多くなっています。

総務省の情報通信白書 令和7年版でも、勤め先の生成AIの活用方針について尋ねた調査で、日本の中小企業は「方針を明確に定めていない」との回答が約半数を占めるとしています。また、生成AI導入に際しての懸念事項として、日本では「効果的な活用方法がわからない」が最も多く挙げられています。

つまり、多くの企業が「アカウントは配ったが、個人がそれぞれの判断で使っている」段階にとどまっています。定着させるには、ツールの側ではなく、使い方と運用の側に手を入れる必要があります。

生成AIが社内で定着しない5つの原因

定着しない企業には、共通する原因があります。

#原因現場で起きていること
1使う業務が決まっていないこと「自由に使ってください」と言われても、何に使えばよいか分からないままです
2ツールの配布で終わっていること最初の説明会の後、使い方を相談できる場がありません
3利用のルールが分からないこと何を入力してよいか分からず、怖くて使えません
4効果を測っていないこと使われているのか、役に立っているのかを誰も説明できません
5使える人の工夫が共有されないこと上手に使う人が個人で使い続け、ほかの人に広がりません

1. 使う業務が決まっていない

最初の原因は、生成AIを「何にでも使える道具」として配り、どの業務で使うかを決めていないことです。文章の作成や要約に使えると言われても、社員の側からすると、自分の業務のどの場面で、どう使えば手間が減るのかが見えません。

結果として、もともと新しいツールを試すのが好きな人だけが使い、それ以外の人は一度触って終わります。「一部の人しか使っていない」という状態の多くは、ここから生まれています。

2. ツールの配布で終わっている

契約と配布、最初の説明会までは進めても、その後の支援がない例も多く見られます。生成AIは、指示の出し方によって出てくる結果が大きく変わります。最初に試したときに期待外れの回答が返ってくると、「仕事には使えない」と判断され、そのまま使われなくなります。

使い始めの時期に、うまくいかなかったときに相談できる人や場があるかどうかで、その後の利用は大きく変わります。

3. 利用のルールが分からない

「顧客の名前を入れてもよいのか」「社内の資料を貼り付けてもよいのか」「生成した文章をそのまま社外に出してよいのか」が分からないと、慎重な社員ほど使わなくなります。ルールがないことは、自由に使えることではなく、使ってよいか判断できないことを意味します。

IPAの調査でも、AI導入・運用上の課題として「適切な利用を管理するためのルールや基準の作成が難しい」が39.7%に上っています。入力してよい情報の範囲や、生成物を確認する責任の所在は、早い段階で決めておく必要があります。個人情報や著作権の扱いは、国のガイドラインなど公的な資料を確認したうえで、必要に応じて専門家に相談してください。ルールの作り方は中小企業の生成AI社内ルールの作り方で詳しく扱っています。

4. 効果を測っていない

導入時に「何がどれだけ良くなれば成功か」を決めていないと、利用が広がっているのか、役に立っているのかを判断できません。経営層から効果を聞かれても答えられず、契約を続けるかどうかの議論が感覚の話になります。

測っていないと、うまくいっている使い方を見つけることもできません。効果を数字で押さえることは、説明のためだけでなく、次に何を広げるかを決めるためにも必要です。

5. 使える人の工夫が共有されない

どの会社にも、早くから生成AIを使いこなしている人がいます。その人たちは、指示文の書き方や、業務に合わせた使い方を自分なりに工夫しています。しかし、その工夫が個人のパソコンの中にとどまっていると、ほかの社員は一から試行錯誤することになります。

上手に使う人が増えても、会社全体の使い方は底上げされません。工夫を組織の資産に変える仕組みが必要です。

定着させるための5つの打ち手

5つの原因に対応する打ち手は次のとおりです。

打ち手対応する原因
業務単位でユースケースを決めること1. 使う業務が決まっていないこと
推進役を置き、相談の場をつくること2. ツールの配布で終わっていること
入力してよい情報と確認の手順を決めること3. 利用のルールが分からないこと
利用状況と効果を測ること4. 効果を測っていないこと
テンプレートを整え、小さな成功を共有すること5. 使える人の工夫が共有されないこと

業務単位でユースケースを決める

「生成AIを使ってください」ではなく、「この業務の、この作業に、このように使ってください」と決めて渡します。たとえば次のような粒度です。

  • 営業部門:商談メモから、顧客へのお礼メールの下書きを作ること
  • 総務部門:社内からの問い合わせへの回答文の下書きを作ること
  • 管理部門:会議の録音の文字起こしから、議事録の要点を整理すること
  • 全部門:社外向けの文章の誤字や言い回しを確認すること

選ぶときは、業務を作業単位に分けて「手間×頻度×価値」で比べると判断しやすくなります。毎週のように発生し、1回あたりの手間が大きく、間違えても担当者が確認すれば済む作業が、最初の対象に向いています。洗い出しの手順はAI化する業務の洗い出し方で詳しく説明しています。

最初から全部門で一斉に始める必要はありません。協力的な部署を一つ選び、2〜3個のユースケースで確実に成果を出す方が、その後の展開が速くなります。

推進役を置き、相談の場をつくる

各部署に一人、生成AIの使い方を相談できる推進役を置きます。専門家である必要はありません。その部署の業務をよく知り、新しい使い方を試すことに前向きな人が向いています。

推進役の役割は次のとおりです。

  • 部署のユースケースを試し、使い方をテンプレートにまとめること
  • 同僚から「うまくいかない」と相談されたときに、一緒に指示文を見直すこと
  • 部署で使われた例と効果を、全社の担当者に報告すること

推進役の時間は、本来の業務とは別に確保しておくことが大切です。善意に頼ると、忙しい時期に真っ先に後回しになります。あわせて、社内チャットに質問用のチャンネルを設けるなど、誰でも気軽に聞ける場を用意しておきます。

入力してよい情報と確認の手順を決める

ルールは、禁止事項を並べた長い文書より、「この情報は入力してよい」「この情報は入力しない」「生成物はこう確認してから使う」が一目で分かる短いものの方が守られます。最低限、次の3点は決めておきます。

  • 入力してよい情報と、入力してはいけない情報(個人情報、取引先の秘密情報、未公開の経営情報など)
  • 社外に出す文章や数値を、誰がどう確認してから使うか
  • 判断に迷ったときの相談先

契約しているサービスの設定(入力した内容が学習に使われるかどうか、管理者がどこまで利用状況を確認できるかなど)も、提供元の公式ドキュメントで確かめておきます。

利用状況と効果を測る

測る対象は、「使われているか」と「役に立っているか」の2つに分けると整理しやすくなります。

測るもの指標の例測り方の例
利用状況利用している人の割合、ユースケースごとの利用回数管理画面の利用データ、推進役からの報告
作業時間対象の作業1回あたりの時間導入前後に、同じ作業を数回計って比べること
品質手直しの量、差し戻しの件数確認者による記録
利用者の評価使いやすさ、続けたいか短いアンケート

大切なのは、導入する前に、対象の作業に今どれだけ時間がかかっているかを計っておくことです。前の数字がないと、後から効果を示せません。作業時間の削減を金額に直すときは、削減した時間に人件費の単価を掛け、ツールの費用と比べます。費用の側の考え方は生成AIの業務利用にかかる費用の考え方でまとめています。

すべてを精密に測る必要はありません。ユースケースごとに、作業時間か件数のどちらか1つの数字を追うだけでも、経営層への説明と、次に何を広げるかの判断に使えます。

テンプレートを整え、小さな成功を共有する

推進役や上手に使う人の工夫は、ユースケースごとのテンプレートにまとめます。テンプレートには、指示文だけでなく、次の情報を一緒に載せておくと使い回しやすくなります。

  • どの業務の、どの場面で使うか
  • 指示文と、書き換える部分(顧客名、日付、商品名など)
  • 出力の例と、確認すべき点
  • 作ったときにかかった時間が、どれだけ減ったか

テンプレートは、社内のポータルや共有フォルダなど、誰でもすぐに開ける場所に置きます。あわせて、「お礼メールの作成が1件あたりこれだけ短くなった」といった小さな成功を、定例会議や社内チャットで紹介します。身近な同僚の具体的な成功例は、どんな研修よりも「自分も使ってみよう」という動機になります。

定着までの進め方

打ち手は、一度にすべて始める必要はありません。数か月を一つの区切りとして、次の3つの段階で進めます。期間は会社の規模や対象業務によって変わるため、段階ごとの「次へ進む条件」で区切るのがおすすめです。

段階主な作業次へ進む条件
1. 準備と試行対象部署とユースケースを決め、推進役を置きます。ルールを決め、導入前の作業時間を計りますユースケースごとに、テンプレートと導入前の数字がそろっていること
2. 部署での定着対象部署で実際に使い、テンプレートを直しながら、利用状況と作業時間を測ります対象の作業で、利用が続き、時間の削減が数字で確認できること
3. 横への展開成果の出たユースケースと進め方を、ほかの部署に広げます。推進役を各部署に置きます広げた部署でも、同じ指標で効果が確認できること

最初の段階で時間をかけすぎないことも大切です。ユースケースは完璧に選ぶより、まず2〜3個で試し、使われなかったものは早めに入れ替えます。使われなかった理由(指示文が合わない、そもそも作業の頻度が低かった、確認に手間がかかるなど)は、次のユースケースを選ぶ材料になります。

段階2で数字が出なかった場合は、無理に横へ広げず、ユースケースの選び直しやテンプレートの見直しに戻ります。効果が見えないまま全社に広げると、「生成AIは結局使えない」という印象だけが残り、次の取り組みが進めにくくなります。

「チャットで使う」から「業務の仕組みに組み込む」へ

ここまでの打ち手は、主に社員がチャット画面で生成AIを使う場面を想定しています。この段階でも効果は出ますが、限界もあります。毎回、社員が自分で資料を貼り付け、指示文を入力し、結果を別のシステムに転記する必要があるためです。使う人の手間と判断が残る限り、利用はその人の意欲に左右されます。

IPAの調査で「部署の業務プロセスに組み込まれている」が11.9%にとどまっていたように、生成AIを業務の流れそのものに組み込んでいる企業はまだ多くありません。次の段階では、生成AIを社員が「使いに行く」道具から、業務の中で「自然に使われている」仕組みに変えていきます。

段階使われ方例
チャットで使う社員が自分で開き、資料を貼り付けて指示しますメールの下書き、文章の要約
テンプレートで使う決まった指示文に、必要な情報を入れて使います議事録の整理、提案書の骨子づくり
業務の仕組みに組み込む業務システムや社内の情報とつながり、決まった流れの中で動きます社内文書を根拠にした問い合わせ回答、受け取った書類の読み取りと入力

たとえば、社内規程やマニュアルを根拠に回答させる仕組みはRAG導入の進め方で、注文書やFAXの読み取りと入力の自動化は注文書・FAXの入力をAI-OCRで減らす方法で、それぞれ詳しく扱っています。生成AIを使った見積書・提案書づくりのように、社内の過去の資料を参照しながら進める業務も、組み込みの対象になりやすい分野です。

組み込みの段階に進むかどうかは、チャットやテンプレートでの利用で効果が数字で確認できた業務から判断するのが確実です。どの業務で、どれだけ時間が減るかがすでに分かっていれば、システムを作る価値があるかを見積もれます。私たちが営業のノウハウ共有や提案準備の自動化を支援した例のように、個人の工夫を業務の仕組みに変えた取り組みは支援実績で紹介しています。

まとめ:生成AIの定着は「どの業務で使うか」から始める

  • 生成AIを導入した企業でも、個人や試験的な利用にとどまる例が多く、業務の仕組みに組み込んでいる企業はまだ一部です。
  • 定着しない主な原因は、使う業務が決まっていない、ツールの配布で終わっている、利用のルールが分からない、効果を測っていない、使える人の工夫が共有されない、の5つです。
  • 打ち手は、業務単位でユースケースを決めること、推進役と相談の場を置くこと、短いルールを決めること、利用状況と効果を測ること、テンプレートと小さな成功を共有することです。
  • 一度に全社で始めるより、協力的な部署の2〜3個のユースケースから始め、効果を数字で確かめてから横へ広げます。
  • 効果が確認できた業務から、チャットでの利用を業務の仕組みへの組み込みに進めると、利用が個人の意欲に左右されにくくなります。

どの業務から生成AIを使い始めるかの整理から、業務システムへの組み込みまでご相談いただけます。社内での活用が進まずお困りの段階でも、AI開発の支援の内容をご覧のうえ、お気軽にお問い合わせください。

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