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Excel管理の限界サイン10項目とシステム化の判断

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株式会社Riize Advisors 代表取締役 細倉 尚将

株式会社Riize Advisors 代表取締役

細倉 尚将

外資系コンサルティングファームにてM&A戦略・新規事業立案等に従事した後、株式会社Riize Advisorsを創業。コンサルタントとエンジニアのチームで、AI・システム開発を構想から実装・運用まで支援している。

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「受発注も在庫も請求もExcelとマクロで回しているが、作った担当者が辞めたらどうなるのか不安です」「どれが最新のファイルか分からず、月末の集計に何日もかかります」「システム化した方がよいとは思うものの、何から始めればよいのか、費用に見合うのかが分かりません」。こうした悩みを抱えている企業は少なくありません。この記事では、Excel管理が限界に来ているかを見分ける10項目のサインと、すぐにシステム化しなくてよい場合も含めた判断の基準、選択肢ごとの向き不向き、失敗しにくい移行の進め方をお伝えします。

Excel管理が「限界」になるのはなぜか

Excelは、表を作って計算するための道具としてとてもよくできています。導入の手間がほとんどなく、誰でも使え、業務が変われば自分たちで列を足して対応できます。創業期や事業の立ち上げ期に、業務の管理をExcelで始めるのは合理的な選択です。

問題が出てくるのは、Excelが「表計算の道具」から「複数の人が使う業務システムの代わり」になったときです。もともと一人が手元で表を作るための道具に、次のような役割を少しずつ担わせていくと、どこかで無理が出ます。

  • 複数の部署・担当者が、同じデータを入力したり参照したりします
  • 受注から出荷、請求までの流れを、ファイル間の転記やマクロでつなぎます
  • 過去の取引や履歴を、何年分もため込みます
  • 誰が何を変えてよいかを、運用ルールだけで守ります

ここで言う限界は、Excelの機能が足りないという意味だけではありません。多くの場合は「業務の規模や関わる人の数に対して、Excelでの運用のやり方が合わなくなった」状態です。そのため、対処もシステムを入れることだけではなく、Excelの使い方を整えることで足りる場合もあります。

Excelの仕様上の上限

参考までに、Excelそのものの上限も押さえておきます。Microsoft サポートの「Excel の仕様と制限」によると、1つのワークシートで扱える大きさは1,048,576行、16,384列です。中小〜中堅企業の業務データで、この行数に届くことはそれほど多くありません。実際には上限に届く前に、ファイルが重くなる、関数やマクロの処理に時間がかかる、といった使いにくさの方が先に表面化します。

Excel管理が限界に来ているサイン10項目

次の10項目のうち、自社の業務に当てはまるものを確認してみてください。

#サイン起きていること
1中身を直せる人が特定の担当者だけマクロや複雑な関数の仕組みを、作った人しか分からない状態
2複数のファイルへの同じ情報の入力受注・出荷・請求などで、同じ取引を何度も転記している状態
3最新版が分からないファイルの乱立「最新」「最終版」「日付入り」のファイルが複数並んでいる状態
4同時に編集できないこと誰かが開いていると待つ、または上書きで入力が消える状態
5集計や締めにかかる時間月次の集計で、ファイルを集めて貼り合わせる作業が毎回発生している状態
6後工程で見つかる入力ミス・転記ミス請求や出荷の段階で、前の工程の誤りに気付く状態
7重い・開かない・壊れるファイル開くまでに時間がかかる、保存のたびに固まる、破損した経験がある状態
8誰がいつ何を変えたか追えないこと数値が変わった理由を、担当者に聞かないと確かめられない状態
9他のシステムとのやり取りでの毎回の手直し会計ソフトや取引先へ渡すCSVを、毎回手で整えている状態
10業務が変わるたびのシートの作り直し商品・拠点・取引条件が増えるたびに、列や計算式を継ぎ足している状態

1〜3:人とファイルに依存しているサイン

1の属人化は、最も影響の大きいサインです。マクロで受注データを集計し、帳票を出力する仕組みを一人の担当者が作り、その人が異動や退職でいなくなると、仕組みを直せる人がいなくなります。動いているうちは問題が見えにくく、エラーが出たときや業務を変えたいときに初めて困ります。

2の二重入力と3の版の乱立は、多くの場合セットで起きます。部署ごとに自分たちのファイルを持ち、必要な情報を別のファイルから写して使うようになると、どれが正しい値なのかが分からなくなります。

4〜7:日々の作業の手間とミスのサイン

4の同時編集は、Excelの使い方である程度改善できます。Microsoft サポートの「Excel ブックの共同編集を使用して同時に共同作業を行う」によると、共同編集を使うには、ブックを OneDrive、OneDrive for Business、SharePoint Online のいずれかに置き、.xlsx・.xlsm・.xlsb のいずれかの形式で保存する必要があります。社内のファイルサーバーにあるブックを順番に開いている場合は、置き場所を変えるだけで解消することもあります。

ただし、共同編集で同時に入力できるようになっても、入力の誤りを防いだり、決まった手順を守らせたりする仕組みにはなりません。5〜7のように、集計の手間やミス、ファイルの重さが問題になっている場合は、使い方の工夫だけでは限界があります。

8〜10:統制と変化への対応のサイン

8の履歴が追えない状態は、取引の金額や在庫の数量を扱う業務では見過ごせません。セルの値はいつでも誰でも書き換えられるため、運用のルールだけで正しさを守ることになります。

9と10は、事業の成長とともに目立ってくるサインです。取引先や扱う商品が増えるほど、Excelの外とのやり取りや、シートの継ぎ足しが増えていきます。

すぐにシステム化しなくてよい場合もある

サインがいくつか当てはまっても、すぐにシステムを導入するのが正解とは限りません。当てはまった数だけで判断するのではなく、そのサインがどれだけの手間と損失を生んでいるかで判断します。

次のような場合は、システム化よりも、まずExcelの使い方を整える方が向いています。

  • 使う人が1〜2人で、ファイルを同時に触る場面がほとんどない場合
  • 月に数回しか使わない業務で、手間が大きくない場合
  • 事業や業務の進め方がまだ固まっておらず、頻繁にやり方を変えている場合
  • 当てはまったサインが4(同時編集)や3(版の乱立)だけで、置き場所と運用ルールで解消できそうな場合

とくに3つ目は重要です。業務のやり方が固まる前にシステムを作ると、作った直後から業務と合わなくなり、結局Excelに戻ることになりがちです。

反対に、次のような場合は、システム化を具体的に検討する時期に来ています。

  • 1(属人化)が当てはまり、担当者がいなくなると業務が止まる場合
  • 2・5・6が重なり、二重入力と集計とミスの手直しに、毎月まとまった時間を使っている場合
  • 8が当てはまり、取引金額や在庫の正しさを説明できない場合
  • 10が当てはまり、事業の拡大にExcelの改修が追いつかない場合

判断の目安は「手間×頻度×影響」

迷ったときは、サインごとに次の3つを書き出してみると判断しやすくなります。

観点書き出すこと
手間その作業に1回あたり何時間かかっているか
頻度毎日・毎週・毎月など、どれくらいの回数発生しているか
影響ミスや停止が起きたとき、取引先・売上・決算にどれだけ響くか

手間と頻度を掛ければ、年間でどれだけの時間を使っているかが分かります。そこにミスや属人化による停止の影響を加えると、システム化に使ってよい費用の目安が見えてきます。効果をコスト削減で測るのか、受注を増やせる余力として測るのかも、このときに決めておきます。

業務を作業単位に分けて評価する考え方は、AI化の対象を選ぶときと同じです。評価表の作り方はAI化する業務の洗い出し方で詳しく説明しています。

システム化の選択肢と向き不向き

Excel管理から抜け出す方法は、大きく分けて4つあります。どれか一つを全社で選ぶのではなく、業務ごとに使い分けるのが現実的です。

選択肢向いている場合注意すること
Excelの整理・改善使う人が少なく、業務がまだ変わり続けている場合属人化や統制の問題は残ること
SaaS・クラウドツール会計・勤怠・経費精算など、どの会社でもやり方が近い標準的な業務の場合自社のやり方をツールに合わせる必要があること
ノーコード・ローコードツール部署内で完結する申請・台帳・案件管理などを、早く形にしたい場合作った人に依存する点はExcelと同じで、管理する人とルールが要ること
スクラッチ開発見積や受発注の条件など、自社独自のやり方が競争力になっている業務の場合費用と期間がかかるため、作る範囲を絞ること

Excelの整理・改善

まず試せるのは、Excelのままで使い方を整えることです。たとえば次のような手当てで、サインのいくつかは軽くなります。

  • 1つのファイルに1つの目的を持たせ、入力用・集計用・帳票用を分けます
  • 商品・取引先などのマスタを1か所にまとめ、ほかのファイルはそこを参照します
  • 入力規則で、選べる値や入力できる形式を制限します
  • ファイルの置き場所を1か所に決め、共同編集を使います

マクロについては、配布や受け渡しの方法に注意が必要です。Microsoft Learn の「インターネットからのマクロは、Office で既定でブロックされます」によると、Windows版のOfficeでは、メールの添付などインターネットから取得したファイルのマクロは既定でブロックされます。マクロ付きのファイルをメールでやり取りする運用は、ある日突然動かなくなることがあるため、置き場所を決めて共有する形にしておくと安心です。

SaaS・クラウドツール

会計や勤怠、経費精算のように、どの会社でも業務の流れが近く、法令や制度に沿って決まっている業務は、SaaSを使うのが近道です。自社で作るより早く始められ、制度の変更への対応も提供元に任せられます。

注意したいのは、自社のやり方をそのまま再現しようとしないことです。SaaSは多くの会社に共通する業務の進め方を前提に作られているため、自社の例外的な処理に合わせて追加の開発や設定を重ねると、使わない機能と独自の手当てが増え、費用も運用の手間も膨らみます。

ノーコード・ローコードツール

部署の中で使う台帳や申請、案件の一覧などは、ノーコード・ローコードツールで手早く形にできます。Excelよりも入力の制限や権限の設定をしやすく、業務の変化にも自分たちで合わせられます。

一方で、作った人しか中身が分からなくなる点は、Excelのマクロと同じです。誰が管理するか、どこまでを部署で作ってよいかを決めておかないと、ツールが変わっただけで属人化はそのまま残ります。

スクラッチ開発

見積の作り方、受発注の条件、在庫の引当てのルールなど、自社独自のやり方が取引先からの評価や利益につながっている業務は、パッケージやSaaSに合わせると強みを失うことがあります。こうした業務は、必要な機能だけをスクラッチで作る方が合っています。

スクラッチ開発は、何でも作れる分、範囲を広げるほど費用と期間が膨らみます。標準的な業務はSaaSに任せ、独自の業務だけを作る、と線を引くことが大切です。既存の基幹システムを入れ替える場合の進め方は、基幹システムリプレイスの進め方で詳しく説明しています。

Excelからシステムへ移す進め方

選択肢が決まったら、次の4つの段階で進めます。いきなりツールを選んだり、画面を作り始めたりするより、遠回りに見えても結果的に早く進みます。

段階主な作業次へ進む条件
1. 業務の棚卸し業務を工程に分け、誰が・いつ・どのファイルで・何をしているかを書き出します工程とファイルの対応が一覧になっていること
2. 対象と効果の決定手間×頻度×影響で、最初に移す業務と、効果の測り方を決めます対象業務と効果の数字が決まっていること
3. データの整理マスタ・コード・表記をそろえ、正とするデータを決めます移行するデータの形と範囲が決まっていること
4. 小さな範囲での移行と拡大一つの業務・部署から移し、使われることを確かめてから広げます移した業務でExcelに戻らずに回っていること

1. 業務の棚卸し

最初に、Excelで回している業務を工程に分けて書き出します。受注を例にすると、「受注を受け付ける」「在庫を確認する」「出荷を指示する」「請求書を作る」のような単位です。工程ごとに、担当者、頻度、使っているファイル、ファイル間の転記やマクロの処理を書き出します。

このとき、マクロが何をしているかも確認しておきます。長く使われてきたマクロには、業務の例外処理や過去の取り決めが埋め込まれていることがあり、それが新しい仕組みの要件になるためです。作った担当者がいるうちに、処理の内容を聞き取っておくと後で困りません。

業務の相談を受けて棚卸しをすると、同じ取引の情報を部署ごとのファイルに何度も入力していることが分かる場合が少なくありません。こうした重複が見えると、どこからシステム化すれば効果が大きいかも見えてきます。

2. 対象と効果の決定

棚卸しした工程を「手間×頻度×影響」で並べ、最初に移す業務を決めます。全部を一度に移そうとせず、効果が大きく、ほかの業務とのつながりが比較的少ない業務から始めると、結果を確かめやすくなります。

あわせて、効果をどう測るかを決めておきます。たとえば「月次の締めにかかる日数」「二重入力に使っている時間」「請求の誤りの件数」のように、移す前に今の数字を測っておけば、移した後に比べられます。

3. データの整理

Excelからの移行で、最も手間がかかり、最も後回しにされやすいのがデータの整理です。Excelでは許されていた次のような状態は、システムに移すときにそのままでは入りません。

  • 同じ取引先が、略称・正式名称・旧社名など複数の表記で登録されています
  • 商品コードが部署ごとに違う、またはコードが無く名前だけで管理しています
  • 1つのセルに複数の情報(「10個、うち2個は返品」など)が書かれています
  • 正しい値がどのファイルにあるのか決まっていません

移行の前に、取引先や商品などのマスタをそろえ、どのファイルの値を正とするかを決めます。過去のデータをどこまで移すか(直近の数年分だけにするか、すべてにするか)も、このときに決めておきます。

4. 小さな範囲での移行と拡大

最初は一つの業務、一つの部署から移します。移した直後は、新しい仕組みとExcelを一時的に併用し、結果が合っているかを確かめる期間を設けると安心です。ただし、併用の期間を決めずに続けると、二重管理の手間が増えるだけになります。いつExcelでの運用をやめるかを、あらかじめ決めておきます。

一つの業務がExcelに戻らずに回るようになったら、つながりのある業務へ広げていきます。たとえば、医療卸の基幹システム刷新では、見積・受発注・請求がそれぞれ独立して管理され、同じ取引情報を複数の帳票やシステムへ重複して入力していました。業務を工程単位で棚卸しして再設計し、単一のデータ基盤の上に組み直したことで、二重入力と転記ミスを解消し、月次処理を短縮しています。この取り組みの概要は支援実績で紹介しています。

システム化で失敗しやすい5つの点

Excelからの移行がうまくいかない例には、共通する点があります。

失敗しやすい点起きること避け方
Excelの画面や帳票のそのままの再現Excelの使いにくさまで新しい仕組みに持ち込むこと業務の目的から、必要な入力と出力を決め直すこと
すべての例外処理の盛り込み費用と期間が膨らみ、完成が遠のくこと頻度の低い例外は運用で対応し、後から追加すること
データの整理の後回し移行の直前に作業が集中し、稼働が遅れること棚卸しと並行して、早めにマスタをそろえること
現場の担当者抜きでの仕様の決定使われずに、Excelでの運用が裏で続くこと毎日入力する担当者に、早い段階で試してもらうこと
Excelでの運用をやめる時期の未決定二重管理が続き、手間がかえって増えること併用の期間と、やめる基準を先に決めること

とくに1つ目は見落とされがちです。現場の担当者からは「今のExcelと同じ画面にしてほしい」という要望が出やすいのですが、今のExcelは、限られた機能の中で工夫を重ねた結果の形です。その工夫が必要になった理由までさかのぼって、本当に必要な機能を決めることが、移行の効果を左右します。

システム化した業務のデータが一か所にそろうと、その上でAIを使う道も開けます。紙の注文書をAI-OCRで読み取って入力を減らす、といった取り組みも、データの置き場所と形が決まっていてこそ効果が出ます。

まとめ:Excel管理の限界は「業務の分解」から判断する

  • Excel管理の限界は、Excelの機能不足だけでなく、業務の規模や関わる人の数に対して運用のやり方が合わなくなった状態です。
  • 属人化、二重入力、版の乱立、同時編集、集計の手間、ミス、ファイルの重さ、履歴、外部とのやり取り、業務の変化への対応の10項目で、限界のサインを確認できます。
  • サインの数ではなく、「手間×頻度×影響」で判断します。使う人が少ない業務や、やり方が固まっていない業務は、まずExcelの使い方を整える方が向いています。
  • 選択肢は、Excelの整理・改善、SaaS、ノーコード・ローコード、スクラッチ開発の4つです。標準的な業務はSaaSに任せ、自社独自の業務だけを必要な範囲で作ると、費用と効果の釣り合いを取りやすくなります。
  • 移行は、業務の棚卸し、対象と効果の決定、データの整理、小さな範囲での移行と拡大、の順に進め、Excelでの運用をやめる時期も先に決めておきます。

Excelで回している業務のどこからシステム化するかの整理から、必要な機能に絞った開発、データの移行まで、システム開発の支援でご相談いただけます。まだ方針が固まっていない段階でも、お気軽にお問い合わせください。

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