ColumnAI導入・活用
FAX注文書の入力自動化|AI-OCRで残る作業
Authorこの記事を書いた人

株式会社Riize Advisors 代表取締役
細倉 尚将
外資系コンサルティングファームにてM&A戦略・新規事業立案等に従事した後、株式会社Riize Advisorsを創業。コンサルタントとエンジニアのチームで、AI・システム開発を構想から実装・運用まで支援している。
「毎日届くFAXの注文書を、販売管理システムに手で打ち込んでいます」「取引先ごとに書式がバラバラで、どこに何が書いてあるかを探すだけで時間がかかります」「以前OCRを試しましたが、読み間違いが多くて結局すべて目視で直していました」。紙やFAXで注文を受けている製造業や卸売業では、こうした声がよく聞かれます。この記事では、注文書の入力を5つの工程に分けて、AI-OCRで自動化できるところと人の手が残るところを整理し、従来のOCRと生成AIを使った読み取りの違い、効果の測り方、確認画面や例外処理を含めた進め方、つまずきやすい点をお伝えします。
注文書の入力は5つの工程に分けて考える
「FAXの注文書を自動で入力したい」というとき、多くの場合は読み取りの部分だけが話題になります。ところが実際の入力作業は、読み取りのほかにもいくつかの工程に分かれています。どこまでを機械に任せ、どこに人を残すかは、工程ごとに考えると決めやすくなります。
| 工程 | 何をするか | 自動化しやすさ | 人が残りやすいところ |
|---|---|---|---|
| 1. 読み取り | FAXや紙の画像から文字を読み取ります | 印字された文字は比較的しやすいです | 手書き、かすれ、斜めに送られた画像 |
| 2. 項目の対応付け | 読み取った文字が、取引先・品番・数量・納期のどれに当たるかを決めます | 書式が決まっていればしやすく、書式が多いと難しくなります | 備考欄に書かれた追加の指示 |
| 3. マスタ照合 | 取引先名や品番を、自社の取引先マスタ・商品マスタのコードに置き換えます | マスタが整っていればしやすいです | 表記ゆれ、旧品番、マスタに無い品目 |
| 4. 確認 | 読み取った内容が正しいか、取引として問題が無いかを確かめます | 機械には任せきれない工程です | 数量や単価の妥当性、納期の可否 |
| 5. 登録 | 基幹システムや販売管理システムに受注として登録します | 連携の仕組みがあればしやすいです | 連携できないシステムへの手入力 |
この表から分かるとおり、AI-OCRが直接受け持つのは主に1と2です。3はマスタの状態次第で、4は人が判断する前提で設計する工程です。5は、受け取ったデータを基幹システムや販売管理システムに渡す仕組みがあるかどうかで決まります。
読み取りの精度が高くても、3のマスタ照合で毎回手作業が発生したり、5で結局別の画面に打ち直したりしていると、入力の手間はあまり減りません。反対に、読み取りが完璧でなくても、3〜5がつながっていれば、人の作業は「画面で確かめて直す」ことに絞られます。ご相談を受けると、読み取りの精度そのものより、マスタの整い方や確認の手順のほうが効果を左右している場合が多くあります。
従来のOCRと生成AIを使った読み取りの違い
OCRには以前から、帳票の決まった位置に書かれた文字を読み取る仕組みがあります。最近は、生成AIを使って、書式が違う書類からでも必要な項目を取り出す方法が加わっています。
決まった書式に強い方式と、書式の違いに強い方式
Google Cloud の Document AI「カスタム エクストラクタの概要」では、書類から項目を取り出すモデルの作り方を、生成AIの基盤モデルを使う方法、カスタムモデル、テンプレートの3つに分けて説明しています。レイアウトが固定された書類にはテンプレート、年度や発行元によって書式が少し変わる書類にはカスタムモデル、レイアウトの違いが大きい書類には生成AIの基盤モデル、という使い分けです。同じページでは、基盤モデルは通常少ない学習用の書類で済むため、レイアウトが変わる書類では最初の選択肢として勧めています。
注文書に当てはめると、次のように考えられます。
| 方式 | 向いている注文書 | 気を付けること |
|---|---|---|
| 位置で読み取る従来型 | 自社が配った決まった様式で注文が届く場合 | 取引先が様式を変えると読み取れなくなること |
| 書式ごとに学習させる方式 | 取引先の数が限られ、書式ごとに見本を集められる場合 | 書式が増えるたびに準備が要ること |
| 生成AIを使う方式 | 取引先ごとに書式がバラバラな場合 | 読み間違いや取り違えが無くなるわけではないこと |
「以前OCRを試したが読み取れなかった」という経験が、取引先ごとの書式の違いから来ていたのであれば、生成AIを使う方式で結果が変わる可能性があります。ただし、どの方式でも読み間違いはゼロにはなりません。生成AIを使う方式は、書式の違いには強い一方で、もっともらしい値を返してしまうこともあるため、確認の工程はどの方式でも必要です。
「信頼度」で人が確認する範囲を絞る
読み間違いをゼロにできない以上、大事になるのは「どこを人が見るか」を絞ることです。多くのサービスは、読み取った値ごとに、その値がどれだけ確かかを示す信頼度を返します。
Microsoft Learn の「モデルの正確性スコアと信頼度スコアの解釈と改善」によると、Azure の Document Intelligence では、フィールドの信頼度を、予測が正しい確率の推定値として0から1までの値で示します。正確さが重要な場面では、信頼度を使って、予測をそのまま受け入れるか、人によるレビューに回すかを決められると説明しています。同じページでは、信頼度が低いときの対処として、入力する書類の品質を上げること、分析する書類が同じ種類かを確かめること、人によるレビューを業務の流れに組み込むことなどを挙げています。Google Cloud のカスタム エクストラクタのページでも、取り出した項目ごとに0から1の信頼度が付き、値が低い項目について手動の確認を始めるきっかけにできるとしています。
ここで押さえておきたいのは、信頼度が高いことと、値が正しいことは同じではないという点です。信頼度は目安として使い、どの値から人が確認するかは、自社の注文書で試しながら決めます。
着手する前に、効果を数字で決める
AI-OCRの検討は、製品の比較から始めたくなります。その前に、今の入力作業にどれだけ時間がかかっていて、どこまで減らせれば成功とするかを決めておくと、製品選びも、試したあとの判断もぶれにくくなります。
1枚あたりの時間×枚数で、今の手間を出す
今の手間は、次の式でおおまかに出せます。
1か月の入力時間 = 注文書1枚あたりの入力時間 × 1か月の枚数
たとえば仮に、1枚あたり5分かかる注文書が1か月に1,000枚届くとすると、入力だけで約83時間になります。ここに、入力ミスによる出荷の誤りや問い合わせへの対応、入力担当者が休んだ日の遅れなどが加わります。この数字は説明のための例ですので、まずは自社で1〜2週間ほど、枚数と1枚あたりの時間を記録してみてください。
記録するときは、取引先ごとに分けておくと、あとで対象を選ぶときに役立ちます。
| 記録すること | 理由 |
|---|---|
| 取引先ごとの1か月の枚数 | 効果の大きい取引先を見つけるため |
| 1枚あたりの入力時間 | 書式によって手間の差が大きいため |
| 1枚あたりの明細の行数 | 行数が多いほど読み取りの効果が出やすいため |
| 手書きの有無 | 読み取りの難しさが変わるため |
| 入力ミスとその後の対応の件数 | 時間以外の効果を測るため |
どの業務からAIで置き換えるかを、手間・頻度・価値で並べる考え方は、AI化する業務の洗い出し方で詳しく説明しています。
導入後に見る数字
導入したあとは、入力時間がどう変わったかに加えて、次の数字を見ると、どこを直せばよいかが分かります。
- 人が値を直した項目の割合(取引先別・項目別)
- 1枚あたりの確認にかかる時間
- マスタに当てはまらず、手で選んだ品目の件数
- 登録後に見つかった誤りの件数
入力時間は減ったのに確認の時間が増えて、全体ではあまり変わらない、ということは起こり得ます。「入力時間」ではなく「注文書が届いてから受注として登録されるまでの人の作業時間」で比べることをお勧めします。
進め方:小さく始めて、確認と例外の扱いを先に決める
どの取引先から始めるか
最初の対象は、「1か月の枚数が多く、書式が安定している取引先」から選ぶのが基本です。枚数が多ければ効果が数字に表れやすく、書式が安定していれば読み取りの問題と業務の問題を切り分けやすくなります。
一方で、取引先ごとに書式がバラバラで、1社あたりの枚数は少ないが社数が多い、という会社もあります。この場合は、上位の数社だけでは全体の手間があまり減りません。生成AIを使う方式で、書式の違う注文書をまとめて試し、どの書式で読み間違いが多いかを確かめるところから始めるのが現実的です。
| 自社の状況 | 始め方 |
|---|---|
| 上位の数社で全体の枚数の多くを占める場合 | 枚数の多い取引先から、1社ずつ対象を広げます |
| 取引先が多く、1社あたりの枚数が少ない場合 | 書式の違う注文書をまとめて試し、読み取りにくい書式を洗い出します |
| 手書きの注文書が多い場合 | 印字の注文書から始め、手書きは後から対象に加えるかを判断します |
どちらの場合も、試す段階で本番と同じ流れ(読み取りから確認、登録まで)を小さく通しておくと、読み取りだけを試して「精度は高かったが現場では使われない」という状態を避けられます。試験導入で止まってしまう原因と本番に移る条件は、AIのPoC止まりの原因と本番移行の条件でもお話ししています。
確認画面の設計
人が確認する前提に立つと、効果を大きく左右するのは確認画面です。次の点を押さえると、確認の時間を短くできます。
- 注文書の画像と読み取った値を、同じ画面に並べて表示すること
- 値をクリックすると、画像の該当する場所が分かるようにすること
- 信頼度が低い項目や、マスタに当てはまらなかった項目に色を付け、そこだけ見れば済むようにすること
- 品番や取引先は、手で打ち直すのではなく、マスタの候補から選べるようにすること
- 前回と同じ取引先・同じ品目の注文と比べて、数量や単価が大きく違うときに知らせること
確認する人が、すべての項目を毎回上から順に見ているうちは、入力の手間が「確認の手間」に置き換わっただけになります。どの項目を見ればよいかが画面で分かるようになって、はじめて手間が減ります。
例外を決めておく
注文書には、どうしても自動では扱いきれないものが混ざります。あらかじめ扱いを決めておくと、現場が迷いません。
| 例外の例 | 扱いの例 |
|---|---|
| 画像が不鮮明で読み取れない注文書 | 自動の処理から外し、担当者が手で入力します |
| 備考欄に「前回と同じ」「至急」などの指示がある場合 | 備考欄に文字があれば必ず人が確認する、と決めておきます |
| 注文の訂正やキャンセルのFAX | 新しい注文と区別し、元の注文と照らし合わせます |
| マスタに無い品目や新しい取引先 | マスタへの登録を担当する人に回します |
例外として人に回した件数も記録しておくと、次にどこを改善すればよいかが見えてきます。
つまずきやすい3つのところ
手書きの注文書
印字された注文書に比べると、手書きの文字は読み取りの誤りが増えやすくなります。特に、数量や品番の数字の読み違いは、そのまま出荷の誤りにつながります。手書きの注文書が多い場合は、最初から全件を対象にせず、印字の注文書で流れを固めてから広げる方が安全です。取引先に、注文書の様式やメールでの送付をお願いできるかどうかも、あわせて検討する価値があります。
品番の表記ゆれ
同じ商品でも、取引先によって品番の書き方が違うことがあります。ハイフンの有無、全角と半角、旧品番や取引先独自の呼び名などです。読み取りが正しくても、自社の商品マスタと一致しなければ、人が選び直すことになります。
対策としては、取引先ごとに「先方の書き方」と「自社の品番」の対応表を持ち、確認画面で人が選んだ結果をこの対応表に貯めていく方法があります。運用を続けるほど、手で選ぶ件数が減っていきます。
マスタの不整合
取引先マスタや商品マスタ自体に、重複や古い情報が残っていることもあります。同じ取引先が別のコードで二重に登録されている、廃番の商品が残っている、といった状態です。この場合、AI-OCRを入れても照合の段階で迷いが生じます。マスタがExcelや複数のシステムに分かれている場合の整理の考え方は、Excel管理の限界とシステム化の判断でも取り上げています。導入の前に、対象とする取引先と商品の範囲だけでもマスタを整えておくと、効果が出るまでの時間が短くなります。
外部サービスを使うときの確認
注文書には、取引先の担当者の氏名や電話番号などが書かれていることがあります。クラウドのOCRサービスや生成AIのサービスに注文書を渡す場合は、個人情報の扱いも確認しておく必要があります。
個人情報保護委員会の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)は、個人情報取扱事業者が生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認するよう求めています。また、本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し、そのデータが応答の出力以外の目的で扱われる場合には、個人情報保護法の規定に違反する可能性があるとし、提供事業者が個人データを機械学習に利用しないことなどを十分に確認するよう示しています。
使うサービスの利用規約やデータの扱いを確かめたうえで、自社での判断に迷う点は専門家に相談することをお勧めします。社内で生成AIを使うときのルールの決め方は、中小企業の生成AI社内ルールの作り方で説明しています。
データが一か所にそろうと、次にできること
注文書の入力を自動化する効果は、入力時間が減ることだけではありません。これまで紙やFAXの中にあった注文の情報が、データとしてそろうことにも価値があります。
- 取引先別・品目別の注文の傾向を、集計し直さずに見られるようになります
- 注文の増減を早くつかみ、生産や仕入れの計画に生かしやすくなります
- 見積・受注・出荷・請求の情報がつながっていれば、同じ取引情報の二重入力や転記のミスを減らせます
ただし、そのためには、読み取ったデータの行き先が一つにまとまっている必要があります。見積・受注・請求がそれぞれ別の表やシステムで管理されている状態のままAI-OCRを入れると、読み取ったデータをさらに別の場所へ転記する作業が残ります。
医療卸の基幹システム刷新では、見積・受発注・請求がそれぞれ独立して管理され、同じ取引情報を複数の帳票やシステムへ重複して入力していました。業務を工程単位で棚卸しし、見積・受発注・請求・取引管理を単一のデータ基盤の上に組み直したうえで、AI-OCRによる入力の自動化を加えています。その結果、二重入力と転記ミスを解消し、月次処理を短縮しました。取り組みの概要は支援実績で紹介しています。読み取りの仕組みだけを先に入れるより、データの置き場所を整えたうえで入力を自動化する方が、効果が広がりやすいということです。
まとめ:読み取りより「確認」と「つなぎ」で効果が決まる
- 注文書の入力は、読み取り、項目の対応付け、マスタ照合、確認、登録の5つの工程に分けて考えます。AI-OCRが直接受け持つのは主に読み取りと項目の対応付けです。
- 従来のOCRは決まった書式に強く、生成AIを使う方式は書式の違いに強いという違いがあります。ただし、どの方式でも読み間違いはゼロにならないため、人が確認する前提で設計します。
- 着手の前に、1枚あたりの入力時間×1か月の枚数で今の手間を出し、取引先ごとに記録します。導入後は、確認を含めた人の作業時間で比べます。
- 確認画面では、画像と値を並べ、信頼度が低い項目やマスタに当てはまらない項目だけを目立たせます。例外の扱いも先に決めておきます。
- 手書き、品番の表記ゆれ、マスタの不整合が、つまずきやすいところです。対応表を貯める仕組みと、対象範囲のマスタの整理で備えます。
- 読み取ったデータの行き先が一つにまとまっていると、二重入力の解消や注文の傾向の把握にまで効果が広がります。
注文書の入力作業の手間の洗い出しから、AI-OCRの試験導入、確認画面の設計、基幹システムとのつなぎ込みまで、AI開発の支援でご相談いただけます。まずは今の枚数と手間の整理からでもお気軽にお声がけください。
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