Column業務・基幹システム

卸売のFAX受注を基幹システムに連携する4つの打ち手

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株式会社Riize Advisors 代表取締役 細倉 尚将

株式会社Riize Advisors 代表取締役

細倉 尚将

外資系コンサルティングファームにてM&A戦略・新規事業立案等に従事した後、株式会社Riize Advisorsを創業。コンサルタントとエンジニアのチームで、AI・システム開発を構想から実装・運用まで支援している。

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締めの前の夕方、FAX・電話・メール・取引先のEDIから注文が次々に届き、営業事務が販売管理システムへの入力と、取引先ごとの単価や掛率のチェックに追われる。FAXの読み取りだけを自動にしても、基幹システムへの登録が手作業のままでは、この負担はあまり軽くなりません。この記事では、卸売の受注業務を「注文の入口」と「基幹システムへの取り込み」に分けて見直す方法として、入口の棚卸しの仕方、入口ごとの打ち手、マスタ照合・在庫引当・二重登録の防止を含む取り込みの設計、段階的な進め方と効果の測り方をお伝えします。

卸売の受注業務が複雑になりやすい理由

卸売の受注は、注文を受けて伝票を起こすだけの作業に見えて、実際にはいくつもの判断が重なっています。製造業の受注と比べても、次の特徴が重なりやすい業務です。

  • 入口が多い:取引先の規模や業界の慣習によって、FAX、電話、メール、取引先が指定するEDI、自社のWeb発注など、注文の届き方がばらばらです。一社の中で複数の入口が混ざることもあります。
  • 取引先ごとに条件が違う:同じ品目でも、取引先ごとの単価や掛率、最低発注単位、配送の条件が違います。入力する人が条件を覚えていて、その場で判断していることも少なくありません。
  • 在庫の引当と納期回答がその場で求められる:在庫があるか、いつ届けられるかを、注文を受けたその日のうちに返すことが期待されます。在庫が足りない場合の代替品や分納の判断も入ります。
  • 締め前に集中する:出荷の締め時刻の前に注文が集まり、短い時間で入力と確認をこなす必要があります。ミスが出やすいのもこの時間帯です。

このため、「FAXの入力を速くする」だけでは受注業務全体はあまり軽くなりません。入口がそれぞれ別の手順で処理され、最後に人が基幹システムへまとめて打ち込んでいる状態では、どこかの入口を自動にしても、残りの入口と基幹システムへの登録で手間が残ります。

まず、注文の入口を棚卸しする

見直しの出発点は、どの入口から、どれだけの注文が、どれだけの手間で届いているかを一覧にすることです。担当者の感覚ではなく、1〜2週間ほど実際の件数と時間を記録して表にします。

入口の棚卸し表の作り方

次のような表を、入口ごと(必要なら主要な取引先ごと)に作ります。

入口1か月の件数1件あたりの手間主な取引先手間がかかっている理由
FAX記録した件数を書きます入力と確認の時間を書きます中小の病院・販売店など書式がそろわず、手書きの訂正も混ざります
電話記録した件数を書きます通話とメモ、入力の時間を書きます急ぎの注文が多い取引先聞き取った内容を後で入力し直しています
メール記録した件数を書きます本文・添付を読み、入力する時間を書きます担当者どうしでやり取りする取引先本文と添付のどちらに注文があるかがまちまちです
取引先のEDI記録した件数を書きます取り込みと確認の時間を書きます大手の取引先取引先ごとに画面や形式が違い、取り込み後の照合が要ります
自社のWeb発注記録した件数を書きます確認の時間を書きます導入済みの取引先入力済みのため手間は小さめです

表には、件数と時間に加えて、次の欄も設けておくと後の判断に役立ちます。

  • 訂正・キャンセル・追加の連絡がどの入口から来るか
  • 締め前の時間帯に集中する入口はどれか
  • 入力ミスが起きた件数と、そのときの入口

棚卸しをすると、件数は少ないのに1件あたりの手間が大きい入口や、締め前に集中して残業の原因になっている入口が見えてきます。どの業務から手を付けるかを手間・頻度・価値で並べる考え方は、AI化する業務の洗い出し方で詳しく説明しています。

入口ごとの4つの打ち手

棚卸しの結果を見ながら、入口ごとに打ち手を選びます。大事なのは、すべての入口を一つの方法でそろえようとしないことです。取引先の事情で変えられない入口もあるため、「寄せられる入口は寄せる」「寄せられない入口は、届いた形のまま読み取って同じ形のデータにする」という二つの方向で考えます。

1. EDI・Web発注へ寄せられる取引先は寄せる

注文の件数が多く、継続して取引している先には、EDIや自社のWeb発注への切り替えをお願いできるかを検討します。最初からデータで届けば、読み取りも転記も要りません。

ただし、取引先にとっては発注の手順を変える負担になります。お願いするときは、締め時刻や納期回答が早くなる、注文の履歴を先方でも見られるなど、取引先にとっての利点を一緒に伝えると話が進みやすくなります。取引先が指定するEDIが複数ある場合は、それぞれの形式から自社の受注データへの変換を一か所にまとめておくと、取引先が増えたときの手間を抑えられます。

2. FAXは読み取りと確認の流れを作る

FAXでしか注文できない取引先は、多くの卸売で残ります。FAXの画像から項目を読み取り、人が確認してから登録する流れを作ります。読み取りの方式の違い、確認画面の設計、手書きや品番の表記ゆれへの備えは、FAX注文書の入力自動化で残る作業で工程ごとにお話ししています。ここでは、読み取った結果を「他の入口と同じ形の受注データ」として出すことだけ押さえておきます。

3. 電話は記録の型を決め、文字起こしを補助に使う

電話の注文は、急ぎや変更の連絡が多く、完全になくすのは難しい入口です。まずは、聞き取る項目と順番(取引先、品目、数量、希望納期、届け先、備考)を決めた入力画面やメモの型を用意し、通話しながらその型に沿って入力できるようにします。

そのうえで、通話を録音して文字に起こし、型の項目に当てはめる仕組みを補助として使う方法があります。文字起こしには聞き間違いが含まれ得るため、数量や品番は通話の中で復唱して確かめる運用と組み合わせ、最後は受けた人が確認して登録する前提にします。

4. メールは本文と添付の両方を読み取る

メールの注文は、本文に品目と数量が書かれている場合と、注文書のPDFやExcelが添付されている場合が混ざります。受注用の宛先を一つに決め、届いたメールの本文と添付の両方から注文の項目を取り出す流れを作ります。添付が注文書の画像やPDFであれば、FAXと同じ読み取りの仕組みを使い回せます。

メールでは、一つのスレッドの中で「先ほどの注文の数量を変更してください」といった訂正が届くこともあります。新しい注文なのか、既存の注文の訂正なのかを見分ける手順を、最初に決めておきます。

基幹システムへの取り込みを設計する

入口ごとの打ち手が決まったら、次は届いた注文を基幹システム(販売管理)へ取り込む部分です。受注業務の手間とミスの多くは、実はこの部分に残っています。ご相談を受けると、読み取りの精度より、取引先ごとの単価や掛率の扱いで人の手が止まっている場合が多くあります。

入口を問わず、同じ形の受注データにそろえる

FAX、電話、メール、EDI、Web発注のどれから届いた注文も、いったん同じ項目を持つ「受注データ」にそろえてから基幹システムへ渡します。項目の例は、取引先、届け先、品目、数量、希望納期、備考、入口の種類、元の注文(画像やメール)への参照です。入口の種類と元の注文への参照を残しておくと、後から問い合わせがあったときに、届いた注文と登録した内容を照らし合わせられます。

マスタ照合:取引先・品目・単価

受注データを基幹システムの受注にするには、取引先マスタ・商品マスタのコードに置き換え、取引先ごとの単価や掛率を当てる必要があります。

照合するものよくある問題設計で決めること
取引先同じ取引先が別のコードで登録されている、届け先が複数あります取引先と届け先を分けて持ち、どちらで照合するかを決めます
品目取引先独自の呼び名や旧品番で注文が届きます取引先ごとの呼び名と自社の品番の対応表を持ちます
単価・掛率取引先ごと・期間ごとに条件が違い、例外の値引きもあります単価は人が打たず、マスタの条件から自動で当てます。注文書に単価が書かれていれば、マスタと違うときに知らせます

単価を人がその場で判断している状態のままでは、入口を自動にしても確認の手間が残ります。取引先ごとの条件がExcelや担当者の頭の中にある場合は、まずそれをマスタとして一か所にまとめることが先になります。Excelでの管理が限界に来ているかどうかの見分け方は、Excel管理の限界サインとシステム化の判断でまとめています。

在庫の引当と納期回答

受注データが基幹システムに入った時点で、在庫を引き当て、納期を返せるようにします。在庫が足りない場合に、分納にするのか、代替品を提案するのか、取り寄せにするのかは、取引先や品目ごとに決まりがあるはずです。その決まりを仕組みに持たせておくと、担当者は「決まりに当てはまらない注文」だけを見れば済みます。

納期回答も、引当の結果から回答の文面を下書きし、担当者が確かめて送る形にすると、締め前の時間を空けやすくなります。

例外の扱いを入口の外で決める

読み取れなかった注文、マスタに当てはまらない品目、条件から外れる単価、在庫が足りない注文などは、人の判断に回します。このとき、例外の扱いを入口ごとにばらばらに決めるのではなく、「受注データになった後の例外」として一つの一覧で扱うと、どの入口から来た注文でも同じ手順で処理できます。誰が、いつまでに判断するかもあわせて決めておきます。

二重登録を防ぐ

入口が複数あると、同じ注文が二度登録される危険が増えます。たとえば、FAXで届いた注文を電話でも念押しされる、メールで送った注文書を同じ内容でFAXでも送ってくる、といった場合です。

  • 取引先・品目・数量・希望納期が近い注文が短い間隔で届いたら、登録の前に知らせます
  • 取引先の注文番号が書かれていれば、それを受注データに持たせ、同じ番号の注文を重ねて登録しないようにします
  • 訂正やキャンセルは、元の注文を探して紐付けてから処理し、新しい注文として登録しないようにします

段階的な進め方

すべての入口と取り込みの仕組みを一度に作り替えると、締め前の業務を止めるおそれがあります。次のような順に、段階を分けて進めます。

  1. 棚卸し:入口ごとの件数・手間・ミスを記録し、表にまとめます。
  2. 受注データの形とマスタを整える:受注データの項目を決め、取引先・品目・単価のマスタを整理します。ここが後のすべての入口の土台になります。
  3. 手間の大きい入口から一つずつ:棚卸しで手間が最も大きかった入口から、読み取りや取り込みの仕組みを入れます。試す段階でも、受注データになってから基幹システムに登録されるまでを小さく通します。
  4. 寄せられる取引先を寄せる:件数の多い取引先に、EDIやWeb発注への切り替えをお願いします。
  5. 残りの入口を足す:電話・メールなど、残った入口を同じ受注データの形に乗せていきます。

今の基幹システムに、外から受注データを取り込む口が無い、あるいは取引先ごとの条件を持たせる追加開発が難しい、という場合もあります。そのときは、受注の部分だけを先に新しい仕組みに切り出すのか、基幹システムそのものを見直すのかを判断することになります。業務を止めずに基幹システムを入れ替える手順は、基幹システムリプレイスの進め方で説明しています。kintoneなどで受注の管理を作り込んできた場合の次の選択肢は、kintone運用の限界と3つの選択肢が参考になります。

効果の測り方

着手の前と後で、次の数字を比べます。どれも、棚卸しのときに入口ごとに記録しておくと比べやすくなります。

測るもの測り方見るときの注意
受注の作業時間入口ごとに、1件あたりの時間×1か月の件数で出します入力だけでなく、確認と例外の処理の時間も含めます
ミスの件数登録後に見つかった誤り(品目、数量、単価、届け先)を数えます誤りが見つかった時点(出荷前か、請求後か)も記録します
締めの時間締め時刻までに受注の登録を終えられた日の割合や、締め後の残業時間を見ます繁忙期と通常期を分けて比べます
納期回答までの時間注文が届いてから回答を返すまでの時間を見ます在庫が足りない注文は別に集計します

作業時間が減っても、ミスの件数が増えていれば、確認の手順か例外の扱いを見直す必要があります。数字は一つだけでなく、組み合わせて見ることをお勧めします。

実例:医療卸の基幹システム刷新

医療卸の基幹システム刷新では、見積・受発注・請求がそれぞれ独立して管理され、同じ取引情報を複数の帳票やシステムへ重複して入力していました。既存のシステムは業務の変化に合わせて機能を足すことができない状態でした。

そこで、分断していた業務を工程単位で棚卸しして組み直し、見積・受発注・請求・取引管理をモジュールとして単一のデータ基盤の上に再構築しています。そのうえでAI-OCRによる入力の自動化を加え、二重入力と転記ミスを解消し、月次処理を短縮しました。稼働後も保守運用と機能追加を続け、業務の変化に合わせて広げられる状態を保っています。取り組みの概要は支援実績で紹介しています。

この例で読み取っていただきたいのは、入力の自動化を先に入れるのではなく、受注を含む取引の情報を一か所にそろえる土台を作ったうえで、入口の自動化を載せている順番です。

受注データがそろうと、次にできること

すべての入口の注文が同じ形の受注データとして残るようになると、入力の手間を減らす以外の使い方も考えられるようになります。

  • 取引先別・品目別の注文の増減を、集計し直さずに見られるようになります
  • 過去の受注の傾向をもとに、需要の見通しを立てて仕入れや在庫の水準を考える材料にできる可能性があります
  • いつも決まった品目を注文する取引先に、注文の漏れや時期の遅れを知らせるといった使い方も考えられます

ただし、需要の見通しがどこまで当たるかは、品目の性質や受注データの量と期間によって大きく変わります。最初から見通しの仕組みを目的にするより、まずは受注データを漏れなく、正しくそろえることを目標にし、そろったデータで何ができるかを確かめながら次の一手を決める方が確実です。

まとめ:入口はそろえず、受注データでそろえる

  • 卸売の受注は、入口の多さ、取引先ごとの単価・掛率、在庫引当と納期回答、締め前の集中が重なり、一つの入口を自動にするだけでは軽くなりにくい業務です。
  • まず入口ごとの件数・手間・ミスを1〜2週間記録し、棚卸しの表を作ります。
  • EDI・Web発注へ寄せられる取引先は寄せ、FAX・電話・メールは届いた形のまま読み取って、同じ形の受注データにそろえます。
  • 基幹システムへの取り込みでは、取引先・品目・単価のマスタ照合、在庫引当と納期回答、例外の一覧、二重登録の防止を設計します。
  • 受注データの形とマスタを先に整え、手間の大きい入口から一つずつ進めます。効果は作業時間、ミスの件数、締めの時間、納期回答までの時間で測ります。

受注の入口の棚卸しから、受注データの設計、基幹システムへの取り込みや刷新まで、システム開発の支援でご相談いただけます。今の受注の流れを整理するところからでも、お気軽にお声がけください。

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