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製造業の見積の属人化|7工程でAIと人を分ける

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株式会社Riize Advisors 代表取締役 細倉 尚将

株式会社Riize Advisors 代表取締役

細倉 尚将

外資系コンサルティングファームにてM&A戦略・新規事業立案等に従事した後、株式会社Riize Advisorsを創業。コンサルタントとエンジニアのチームで、AI・システム開発を構想から実装・運用まで支援している。

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「図面を見て見積を出せるのは、結局ベテランの〇〇さんだけ」「見積の依頼が重なると回答まで何日もかかり、その間に他社に決まってしまう」「前に似た部品を作ったはずなのに、いくらで出して、実際にいくらかかったのか誰も覚えていない」。見積が一部のベテランの経験に頼っている状態を、ここでは見積の属人化と呼びます。この記事では、見積が属人化する理由を整理したうえで、見積を7つの工程に分けて生成AIに任せる部分と人が残す部分を示し、過去見積・図面を使える状態にする準備、類似案件を探す仕組み、回答時間と精度の測り方、段階的な進め方、顧客図面を扱うときの注意点までをお伝えします。

製造業の見積が属人化する4つの理由

見積が特定の人に集まるのは、その人が単に計算に慣れているからではありません。図面を受け取ってから金額を出すまでに、文書になっていない判断がいくつも重なっているためです。

図面から加工の難しさを読み取る判断

同じ外形の部品でも、公差の厳しさ、表面処理の指定、穴やねじの数、薄肉かどうかで手間は大きく変わります。ベテランは図面を一目見て「ここの公差は追い込みに時間がかかる」「この形状は割れやすい」と気付きますが、その気付きは図面にも見積書にも残りません。

工程と段取りの判断

どの設備で、どの順番で加工し、段取り替えに何分かかるかは、自社の設備と人の状況を知っていて初めて見立てられます。ロットが小さいほど段取りの時間が効いてくるため、数量によって見積の考え方そのものが変わります。

材料・外注の相場感

材料の価格、メッキや熱処理などの外注先の単価と納期は、取引の中で更新されていく情報です。直近の仕入れや外注の状況を知っている人ほど見積が正確になり、知らない人は古い感覚で出してしまいます。

過去の失敗の記憶

「この材質は前に歩留まりが悪くて赤字になった」「この顧客は検査の基準が厳しく手直しが出た」といった記憶は、見積の精度を大きく左右します。ところが、この記憶はベテランの頭の中にしかないことがほとんどです。

4つに共通するのは、知識が人に付いていて、記録として残っていないことです。担当者が休む、辞めるといったときに業務が止まる構造は、社内のシステムを一人で見ていた担当者が抜けたときとよく似ています。人に付いた知識を聞き取り、記録に残していく進め方は、システム担当者の退職・引き継ぎの進め方も参考になります。

見積の7工程と、AIと人の役割分担

「見積をAIで自動化したい」という場合も、まず見積の作業を工程に分けます。工程ごとに、生成AIが役に立つかどうかがはっきり分かれるためです。

工程主な作業AIに任せること人が残すこと
1. 図面確認材質・寸法・公差・表面処理・数量・納期を読み取ります図面と依頼文から条件を抜き出し、不足している条件を一覧にします読み取った条件が正しいかの確認です
2. 類似案件探し過去に見積・製作した似た部品を探します条件の近い過去見積を並べ、違う点を示しますどの案件を参考にするかの判断です
3. 工程・工数の見立て加工の順番、設備、段取りと加工の時間を見立てます類似案件の工程と実績の工数を根拠として示します自社の設備と負荷を踏まえた工数の決定です
4. 材料・外注材料の量と価格、外注工程の単価と納期を確かめます必要な材料と外注工程の候補を書き出します最新の単価と納期の確認です
5. 原価計算材料費・加工費・外注費を積み上げます任せません(計算は見積の仕組みで行います)積算ルールの管理です
6. 利益・値付け利益を乗せ、顧客との関係や受注の見込みで金額を決めます任せません金額の決定と承認です
7. 回答見積書と、前提条件・除外事項を顧客に伝えます前提条件と除外事項の説明文を下書きします送ってよいかの最終確認です

金額を決めるのはルールと人、AIは根拠を示す役

表のとおり、原価計算と値付けは生成AIに任せません。生成AIは根拠のない数字でも、もっともらしい形で出してしまうことがあるためです。原価は単価表と工数から計算の仕組みで積み上げ、利益と最終の金額は人が決めます。提案書づくり全体での生成AIの使い分けや、積算ルールを仕組みにする考え方は、提案書作成に生成AIを使う工程の分け方で扱っています。

そのうえで、見積で生成AIに期待する役割は「根拠を探して並べること」です。ベテランが見積を早く正確に出せるのは、頭の中で過去の似た案件を思い出し、「あのときはこの工程でこれだけかかった」と比べているからです。この「思い出して比べる」部分を、過去見積の検索と生成AIで誰でもできるようにすると、若手でも根拠を持って見立てられるようになり、ベテランは最終の確認に時間を使えるようになります。

過去見積・図面を使える状態にする準備

類似案件を探す仕組みは、材料になる過去見積と図面が整っていなければ働きません。見積の相談を受けて状況を伺うと、過去の見積が担当者ごとの表計算ファイルに分かれていて、図面とも結び付いていないことが少なくありません。仕組みを入れる前に、次の3つを整えます。

見積と図面の置き場所とひもづけ

見積書、顧客から受け取った図面、社内で描いた加工図を、同じ番号で結び付けて一か所に置きます。

  • 見積ごとに見積番号を振り、図面のファイルと見積書に同じ番号を付けます
  • 図面は図番と改訂の記号まで控えます。改訂前の図面で見積を出していないかを後から確かめられるようにするためです
  • 過去分は、全件を一度に集めようとせず、直近の受注分や、依頼の多い品目群から集めると始めやすくなります

品番・材質・加工内容の付け方

似た案件を探すときの手がかりになるのは、見積ごとに付けた属性です。付け方がそろっていないと、同じ材質でも検索で見つかりません。

付ける属性例そろえ方
品番・図番顧客の図番と改訂の記号顧客の表記のまま控えます
材質SUS304、A5052、PP「ステンレス」「SUS」などの表記ゆれを一つに決めます
大きさ・重さの区分小物・中物・大物区分の基準を寸法か重さで決めます
主な加工旋盤、マシニング、板金、射出成形社内で使う加工名の一覧から選びます
精度・表面処理公差の厳しさ、メッキ、熱処理厳しい指定があるかどうかを必ず記録します
数量・ロット試作、量産、繰り返し数量と、繰り返しの見込みを分けて書きます
外注工程メッキ、熱処理、研磨外注先の名前ではなく工程名で付けます

属性の一覧は、最初から細かくしすぎないことが大切です。項目が多いと入力されなくなります。ベテランが見積のときに最初に見る項目から始め、使いながら足していきます。

受注の結果と実績原価との差の記録

見積の記録で最も価値があるのは、「その見積がどうなったか」です。

  • 受注・失注:受注したか、失注したかと、分かっていれば理由(価格、納期、仕様)を残します
  • 実績の工数と原価:受注した案件は、製作後に実際にかかった工数と原価を、生産管理や作業日報から拾って見積と並べます
  • 見積との差の理由:差が大きかった案件は、手直し、段取りの増加、材料の値上がりなど、理由を一言残します

見積と実績原価の差が記録されていれば、類似案件を見たときに「前回はこの見積で赤字だった」と分かります。ベテランの「過去の失敗の記憶」を、記録として全員が使える形にする作業です。

類似案件を探す3通りの仕組み

過去見積・図面が整ったら、新しい依頼に近い過去の案件を探す仕組みを考えます。探し方は大きく3通りあり、組み合わせて使うのが一般的です。

属性での絞り込み

材質、大きさの区分、主な加工、表面処理などの属性で過去見積を絞り込みます。最も手堅く、仕組みも単純です。生成AIを使わなくても、属性がそろっているだけで探す時間は大きく変わります。弱いのは、属性の付け方がそろっていない過去分や、属性だけでは表せない形状の違いです。

図面の文字や依頼文での検索

図面に書かれた注記、材質、公差、表面処理の指定、顧客からの依頼メールの文面などを文字として取り出し、意味の近いものを探します。スキャンした図面や画像の図面は、文字を読み取る処理を挟みます。「この注記は前にも見た」という気付きを拾いやすい探し方です。社内の文書を検索して、その内容を根拠に生成AIが答える仕組み(RAG)の作り方や、権限の扱いは、RAG導入の進め方で決める7項目で説明しています。

図面の形の近さでの検索

図面の画像そのものの特徴を数値にして、形が似ている図面を探す方法もあります。外形が近い部品を探すのには向いていますが、見た目が似ていても公差や材質が違えば手間はまったく違います。形の近さは候補を広く拾う手段と考え、最後は属性と文字で確かめます。

生成AIの役割は候補の比較と違いの説明

3通りの探し方で見つかった候補に対し、生成AIには次のような整理を任せます。

  • 新しい依頼と過去の候補3件の条件を表に並べ、違う点(材質、公差、数量など)を書き出します
  • 候補ごとに、見積の工数、実績の工数、見積と実績原価の差、受注・失注を並べます
  • 違う点のうち、工数に効きそうな点を挙げます(判断は人が行います)

ここでも生成AIは金額を出しません。担当者が見積の根拠を確かめられるように、参考にした過去見積の番号を必ず示させます。

回答時間と精度の測り方

効果は、始める前に測り方を決めておきます。見積の改善で見るべきなのは「速さ」と「当たり具合」の両方です。速くなっても、赤字の受注が増えては意味がありません。

指標測り方
回答までの日数見積依頼を受けた日から回答した日までを、見積ごとに記録します
1件あたりの作業時間図面確認から見積書の作成までにかかった時間を、担当者が記録します
見積と実績原価の差受注した案件について、見積の原価と実際の原価の差を比べます
ベテランへの確認回数若手が見積の途中でベテランに確認した回数を数えます
担当できる人の数ベテランの確認だけで出せる見積を、何人が作れるかを数えます

受注率も参考になりますが、値付けや市況、競合の状況に左右されるため、仕組みの効果を測る主な指標にはしません。導入前の数か月分を同じ方法で測っておき、導入後と比べます。

段階的な進め方

見積の仕組みは、一度に全部を作ろうとすると止まりやすくなります。効果を確かめながら、次の順で進めます。

段階主な作業次へ進む条件
1. 対象の決定と現状の計測依頼の多い品目群を一つ選び、今の回答日数と作業時間を測ります対象と今の数字が分かっていることです
2. 過去見積の整理対象の品目群の過去見積に属性を付け、図面とひもづけます属性で過去見積を探せることです
3. 属性での検索と活用新しい依頼のたびに類似案件を引いて、見積の参考にします探す時間が減り、若手が使えていることです
4. 生成AIによる整理の補助図面からの条件の抜き出し、候補の比較、説明文の下書きを加えます抜き出しの誤りが確認で拾えていることです
5. 実績原価との照合受注案件の実績原価を見積に戻し、差の理由を残します差の記録が見積の判断に使われていることです

最初の対象は、件数が多く、ある程度似た部品が繰り返し来る品目群が向いています。どの業務から手を付けるかは、作業を分けて手間・頻度・価値で比べると決めやすくなります。比べ方はAI化する業務の洗い出し方と評価表で紹介しています。

私たちが支援した製造業の営業ナレッジ共有と提案準備の自動化では、ベテランに属人化していた営業ノウハウを、メール返信の下書き、提案骨子の自動生成、商談前の必要情報の自動整理という形で全員が使えるようにしました。若手も即戦力として動けるようになり、ベテランは新規開拓に時間を使えるようになっています。見積でも考え方は同じで、ベテランの知識を記録と仕組みに移すことが出発点です。ほかの支援内容は支援実績でご覧いただけます。

顧客図面を扱うときの注意点

見積で扱う図面の多くは、顧客から預かった機密情報です。生成AIや検索の仕組みに入れる前に、次のことを確かめます。

  • 顧客との契約:取引基本契約や秘密保持契約で、預かった図面の目的外の利用や、外部のサービスで扱うことが制限されていないかを確認します
  • 使うサービスの設定:入力した内容がサービス提供者のAIの学習に使われない設定や契約になっているか、データの保存期間と保存場所はどうかを確かめたサービスに限ります
  • 見てよい人の範囲:顧客ごとに図面を見てよい人を決め、検索の仕組みでも権限を分けます。ある顧客の図面が、別の顧客の担当者の検索結果に出ないようにします
  • 社外に出さない:類似案件として見つけた他社の図面や見積の金額を、別の顧客への説明に使わないことを徹底します

契約の解釈に迷う場合は、社内の法務担当や弁護士などの専門家に確認してください。生成AIに入力してよい情報の決め方など、社内ルール全体の作り方は中小企業の生成AI社内ルールの雛形で扱っています。

まとめ:見積の属人化は「思い出して比べる」部分から

  • 見積の属人化は、図面の読み取り、工程と段取り、材料・外注の相場感、過去の失敗の記憶が記録に残っていないことから起きます
  • 見積を7工程に分け、生成AIには条件の抜き出し、類似案件の比較、説明文の下書きを任せます。原価計算と値付けは、積算ルールと人が決めます
  • 過去見積は図面とひもづけ、材質・加工などの属性をそろえ、受注したかと実績原価との差を残します
  • 類似案件は属性で絞り、図面の文字や形の近さで候補を広げ、最後は人が確かめます
  • 効果は回答までの日数、作業時間、見積と実績原価の差で測ります
  • 顧客図面は機密情報として、契約、学習に使われない設定、見てよい人の範囲を先に決めます

過去見積の整理から類似案件の検索、生成AIを組み込んだ見積の仕組みづくりまで、自社に合う進め方を一緒に考えることもできます。ご関心があればAI開発の支援内容をご覧ください。

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