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卸売業のDX事例と進め方|受発注から始める5つの型

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株式会社Riize Advisors 代表取締役 細倉 尚将

株式会社Riize Advisors 代表取締役

細倉 尚将

外資系コンサルティングファームにてM&A戦略・新規事業立案等に従事した後、株式会社Riize Advisorsを創業。コンサルタントとエンジニアのチームで、AI・システム開発を構想から実装・運用まで支援している。

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中小企業基盤整備機構の中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)では、AIを導入している卸売業は16.8%で、回答企業全体の20.4%を下回りました。卸売業のDXは、新しい技術を探すより、件数が多く毎日の手間がはっきり見える受発注から始めると成果につながりやすい業務です。この記事では、卸売の業務の流れのどこに手作業が溜まりやすいか、受発注から始める理由、取り組みの5つの型(向く会社・最初の一歩・測る数字)、進め方とよくある失敗をお伝えします。

卸売の業務の流れと、手作業が溜まりやすい場所

医療機器・医薬品の卸、部品・資材の専門商社、食品卸など、扱う商品は違っても、卸売の業務はおおむね次の流れでつながっています。

  1. 受注:取引先から注文を受け、品目・数量・届け先・納期を確かめて登録します。
  2. 引当・出荷:在庫を引き当て、納期を回答し、出荷の指示を出します。
  3. 請求・入金:出荷の実績から請求書を作り、入金を確かめて売掛金を消し込みます。
  4. 仕入・在庫:在庫の減り方を見て仕入先に発注し、入荷を受け付けます。

この流れの中で、手作業と二重入力が溜まりやすい場所には共通点があります。

工程手作業が溜まりやすい場面起きやすい問題
受注FAX・電話・メールで届いた注文を、人が販売管理に打ち込んでいます転記ミスや入力の遅れが、後の工程すべてに響きます
引当・出荷在庫や入荷予定を担当者が別の画面や表で確かめて、納期を返しています回答に時間がかかり、担当者ごとに回答がぶれます
請求・入金取引先ごとの締め日や請求の形式に合わせて、手で調整しています入金と請求の突き合わせに、月末の時間が取られます
仕入・在庫発注量を担当者の経験で決めています欠品と過剰在庫が同時に起きることがあります

表を横に見ると、どの工程の問題も、受注で入ったデータの正しさと早さに左右されていることが分かります。

なぜ受発注から始めるのが効きやすいのか

DXの最初の取り組みとして受発注を選ぶ理由は、次の3つです。

件数が多く、毎日発生する

受注は、卸売の業務の中でも件数が多く、毎日発生します。1件あたりの手間が小さくても、件数を掛けると大きな時間になります。改善の効果が「たまに起きる業務」より積み上がりやすいのが特徴です。

効果を数字で測りやすい

受注は、件数、1件あたりの入力時間、入力ミスの件数、締め時刻までに登録を終えられた日の割合など、着手の前と後で比べられる数字が揃っています。同じ機構の中小企業のDX推進に関する調査(2025年)では、DXに既に取り組んでいる企業でも「具体的な効果や成果が見えない」と答えた割合が18.5%ありました。最初の取り組みで効果を数字で示せると、社内で次の一手の合意が取りやすくなります。

後工程のデータの起点になる

引当・出荷、請求・入金、仕入・在庫は、どれも受注のデータを使って動きます。受注が正しく、早く、同じ形でシステムに入るようになると、後の工程の自動化や見える化が進めやすくなります。逆に、受注を手作業のままにして後工程だけを整えても、入口のデータが遅れたり誤ったりしていれば、効果は限られます。

卸売業のDX、取り組みの5つの型

ここからは、中小の卸売業で考えやすい取り組みを5つの型に分けて示します。どれも受注のデータを起点にしているため、1の型から順に重ねていく形が基本です。会社の状況によっては、2や4から入る場合もあります。

型1:受注入力の集約と基幹システムへの連携

FAX・電話・メール・取引先のEDIなど、ばらばらの入口から届く注文を、同じ形の受注データにそろえて基幹システム(販売管理)に取り込む型です。

  • 向く会社:注文の入口が複数あり、営業事務が締め前に入力に追われている会社です。
  • 最初の一歩:入口ごとに1〜2週間、件数と1件あたりの手間を記録し、最も手間の大きい入口を一つ選びます。
  • 測る数字:1件あたりの受注の作業時間、入力ミスの件数、締め時刻までに登録を終えられた日の割合です。

入口ごとの打ち手と取り込みの設計(マスタ照合、在庫引当、二重登録の防止)は、卸売のFAX受注を基幹システムに連携する方法で詳しくお話ししています。FAXの読み取りの工程や確認画面の作り方は、FAX注文書の入力自動化で残る作業が参考になります。

型2:取引先ごとの単価・掛率の一元管理

同じ品目でも取引先ごと・期間ごとに単価や掛率が違うのは、卸売ではよくあることです。その条件をExcelや担当者の記憶ではなく、一つのマスタにまとめて、受注のときに自動で当てる型です。

  • 向く会社:単価の確認に人の手が止まる、担当者が休むと単価が分からなくなる、請求後に単価の誤りが見つかることがある会社です。
  • 最初の一歩:取引先ごとの単価・掛率・特別な値引きが、今どこに、どの形で保存されているかを洗い出します。
  • 測る数字:単価の誤りの件数、単価の確認にかかる時間、請求後の訂正の件数です。

単価の表をExcelで管理している場合、その運用が限界に来ているかどうかは、Excel管理の限界サインとシステム化の判断で見分け方をまとめています。

型3:在庫・納期回答の見える化

在庫と入荷予定を、受注の担当者が同じ画面で見られるようにし、納期回答の下書きまで出せるようにする型です。

  • 向く会社:「在庫はありますか」「いつ届きますか」という問い合わせが多く、回答のたびに倉庫や仕入の担当者に確かめている会社です。
  • 最初の一歩:納期の問い合わせの件数と、回答までにかかっている時間を記録します。在庫が足りないときの決まり(分納にするか、代替品を出すか)を書き出します。
  • 測る数字:注文や問い合わせから納期回答までの時間、回答の誤りの件数、欠品による受注の取りこぼしの件数です。

型4:請求・入金消込の自動化

出荷の実績から請求を作り、入金のデータと請求を突き合わせて消し込む作業を、仕組みに任せる型です。人は、金額が合わない入金や、まとめて振り込まれた入金だけを確かめます。

  • 向く会社:取引先の数が多く、月末に請求と入金の突き合わせで管理部門の時間が取られている会社です。
  • 最初の一歩:入金と請求が自動で合わない理由(振込手数料の差し引き、複数の請求のまとめ払い、名義の違いなど)を、1か月分ほど分類します。
  • 測る数字:消込にかかる時間、手で確かめた入金の件数、月次の締めにかかる日数です。

型5:受注データからの需要の見通し

受注のデータが漏れなくそろってきたら、取引先別・品目別の注文の動きを見て、仕入や在庫の水準を考える材料にする型です。

  • 向く会社:型1〜3が動いていて、少なくとも1年分ほどの受注データが同じ形でそろっている会社です。
  • 最初の一歩:まずは見通しの仕組みを作るより、品目別・月別の受注の推移を集計し直さずに見られるようにします。
  • 測る数字:欠品の件数、在庫の回転の度合い、急ぎの仕入の件数です。

需要の見通しがどこまで当たるかは、品目の性質やデータの量と期間によって大きく変わります。最初からこの型を目的にすると、データが足りずに止まりやすいため、型1でデータをそろえた後の「次の一手」として位置付けることをお勧めします。

5つの型の比べ方

型主に軽くなる部門前提になるもの始めやすさ
1 受注入力の集約と連携営業事務入口ごとの件数と手間の記録です最初の一件に向いています
2 単価・掛率の一元管理営業事務・管理部門取引先ごとの条件の洗い出しです型1と同時に進めると効果が出やすいです
3 在庫・納期回答の見える化営業・倉庫在庫と入荷予定のデータです型1の後に重ねやすいです
4 請求・入金消込の自動化管理部門請求と入金のデータです受注と切り離して始めることもできます
5 需要の見通し仕入・経営同じ形でそろった受注データです型1〜3の後に考えます

扱う商品による入り方の違い

同じ卸売でも、扱う商品によって重くなりやすい型は変わります。次は目安で、実際の順番は棚卸しの結果で決めます。

  • 医療機器・医薬品の卸:取引先の数が多く、品目ごとの管理項目(ロットや使用期限など)も確かめながら出荷することが多い業態です。型1で受注をそろえたうえで、型3の在庫・納期回答を早めに重ねると、問い合わせへの対応が軽くなりやすくなります。
  • 部品・資材の専門商社:品番の数が多く、取引先独自の品番や旧品番で注文が届くことがよくあります。型1と型2を同時に進め、品番の対応表と単価の条件を一つのマスタにまとめることが効きやすい業態です。
  • 食品卸:毎日の注文が多く、注文の受付から出荷までの時間が短い業態です。締め前の入力が集中しやすいため、型1の受注入力の集約から入り、出荷の指示までを短くすることを優先します。

実例:医療卸の基幹システム刷新

Riize が支援した医療卸の基幹システム刷新では、見積・受発注・請求がそれぞれ独立して管理され、同じ取引情報を複数の帳票やシステムへ重複して入力していました。既存のシステムは業務の変化に合わせて機能を足せない状態でした。

そこで、分断していた業務を工程単位で棚卸しして組み直し、見積・受発注・請求・取引管理をモジュールとして単一のデータ基盤の上に再構築したうえで、AI-OCRによる入力の自動化を加えています。結果として、二重入力と転記ミスを解消し、月次処理を短縮しました。概要は支援実績で紹介しています。

5つの型に当てはめると、型1と型2の土台(受注の情報を一か所にそろえること)を先に作り、その上に入力の自動化を載せた順番になります。

進め方:棚卸し、優先順位、小さく始める、基幹とつなぐ

卸売業のDXは、次の4段階で進めると、途中で止まりにくくなります。

1. 業務を棚卸しする

受注から仕入・在庫までの工程ごとに、誰が、どの画面や紙で、どれだけの時間をかけているかを記録します。担当者の感覚ではなく、1〜2週間の実際の件数と時間で表にするのが要点です。

2. 優先順位を付ける

棚卸しの表をもとに、手間と頻度と効果の大きさで工程を並べます。並べ方の考え方は、AI化する業務の洗い出し方で評価の表を使って説明しています。受注は件数が多いため上位に来やすい工程ですが、思い込みで決めず、表で確かめてから選びます。

3. 小さく始めて、数字で示す

最初は、一つの入口、一つの取引先のまとまり、一つの部署などに範囲を絞って始めます。着手前に測った数字と比べて効果を示し、次の範囲に広げるかを決めます。社内で担当を任された方が最初の数か月をどう進めるかは、DX担当を任されたときの最初の90日にまとめています。

4. 基幹システムとつなぐ

小さく始めた仕組みも、最後は基幹システム(販売管理)とつながらなければ、二重入力が形を変えて残ります。今の基幹システムに外からデータを取り込む口が無い、取引先ごとの条件を持たせる追加開発が難しいといった場合は、基幹システムそのものを見直す判断が必要になります。業務を止めずに入れ替える手順は、基幹システムリプレイスの進め方で説明しています。

よくある失敗3つ

ツールを先に選ぶ

受注の自動化ツールや在庫管理のサービスを先に決め、後から業務を合わせようとすると、取引先ごとの例外や締めの決まりが合わずに使われなくなりがちです。棚卸しで「どの工程の、どの手間を減らすか」を決めてから、手段を選びます。

取引先を巻き込まない

卸売の受発注は、自社だけで完結しません。EDIやWeb発注への切り替え、注文書の書式、納期回答の受け取り方など、取引先の協力が要る場面があります。取引先にとっての利点(回答が早くなる、注文の履歴を先方でも見られるなど)を添えて、早めに相談しておくと進みやすくなります。

マスタを整えないまま始める

取引先・品目・単価のマスタに重複や古い登録が残ったままでは、入力を自動にしても照合で止まります。同じ取引先が別のコードで登録されている、取引先独自の品番の対応表が無い、といった状態は、仕組みを入れる前に整理します。地味な作業ですが、どの型でも土台になる部分です。

まとめ:卸売業のDXは、受注のデータをそろえるところから

  • 卸売の業務は、受注、引当・出荷、請求・入金、仕入・在庫とつながっていて、どの工程も受注のデータの正しさと早さに左右されます。
  • 受発注は、件数が多く、効果を数字で測りやすく、後工程のデータの起点になるため、最初の取り組みに向いています。
  • 取り組みの型は、受注入力の集約と連携、単価・掛率の一元管理、在庫・納期回答の見える化、請求・入金消込の自動化、需要の見通しの5つです。型ごとに測る数字を着手前に決めておきます。
  • 進め方は、棚卸し、優先順位、小さく始める、基幹システムとつなぐ、の4段階です。
  • ツール先行、取引先を巻き込まないこと、マスタの未整備が、よくある失敗です。

どの工程から手を付けるかの整理や、取り組みの順番づくりは、コンサルティングの支援でご相談いただけます。今の業務の流れを棚卸しするところからでも、お気軽にお声がけください。

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