Column生成AI・LLM
提案書作成に生成AIを使う|任せる工程・残す工程
Authorこの記事を書いた人

株式会社Riize Advisors 代表取締役
細倉 尚将
外資系コンサルティングファームにてM&A戦略・新規事業立案等に従事した後、株式会社Riize Advisorsを創業。コンサルタントとエンジニアのチームで、AI・システム開発を構想から実装・運用まで支援している。
「提案書づくりに、毎回何時間もかかってしまう」「良い提案書を書けるのは、結局ベテランだけ」「似た案件の提案書が前にあったはずなのに、どこにあるか分からない」。営業や技術営業の現場からは、こうした声がよく聞かれます。この記事では、提案書・見積書づくりを7つの工程に分け、生成AIに任せやすい部分と人が残すべき部分を整理したうえで、過去の提案書を使える状態にする準備、見積の数字の扱い方、顧客情報を入力するときの注意、効果の測り方までをお伝えします。
提案書づくりの時間はどこに使われているか
「生成AIで提案書を作る」と聞くと、指示を一つ出せば提案書が丸ごと出来上がる姿を思い浮かべるかもしれません。実際には、提案書づくりは文章を書く作業だけではありません。時間がかかっている工程を分けてみると、生成AIが役に立つところと、そうでないところがはっきりします。
一般的な提案・見積の作業は、次の7つの工程に分けられます。
| 工程 | 主な作業 | 生成AIの向き不向き | 人が残すこと |
|---|---|---|---|
| 1. ヒアリング整理 | 商談メモ・メール・議事録から、顧客の課題・要望・条件を整理します | 向いています | 聞き漏れていることの判断 |
| 2. 骨子づくり | 提案の章立てと、各章で言うことを決めます | 向いています(たたき台) | 何を一番の提案にするかの判断 |
| 3. 過去事例探し | 似た業種・似た課題の提案書や実績を探します | 仕組みがあれば向いています | 載せてよい事例かの判断 |
| 4. 本文の作成 | 課題の整理、解決策、進め方、体制などを文章にします | 向いています(下書き) | 自社が約束できる内容かの確認 |
| 5. 見積の積算 | 数量・単価・工数・値引きなどから金額を出します | 向いていません | 積算ルールの管理と金額の確定 |
| 6. 体裁の調整 | テンプレートへの流し込み、表現の統一、誤字の確認をします | 一部向いています | 最終的な見た目の確認 |
| 7. 確認・承認 | 上長や技術担当が内容と金額を確認します | 補助にとどまります | 承認そのもの |
表の「向いています」は、生成AIが最初の案を出し、人が直して仕上げる、という意味です。どの工程でも、生成AIの出力をそのまま顧客に出すことは前提にしていません。
生成AIに任せやすい工程
生成AIが力を発揮しやすいのは、材料はそろっているが、まとめるのに時間がかかる工程です。
- ヒアリング整理:商談メモや顧客からのメールを渡し、「課題」「要望」「予算・納期などの条件」「未確認の事項」に分けて書き出させます。未確認の事項が一覧になるだけでも、次の打ち合わせで聞くべきことが明確になります。
- 骨子づくり:整理した課題と、自社の提供できることを渡して、章立てのたたき台をつくらせます。白紙から考えるより、案を見て直す方が早く進みます。
- 本文の下書き:骨子の各章について、過去の提案書の表現を参考にしながら下書きをつくらせます。言い回しの統一や、長い説明の要約も得意です。
- 体裁の一部:表記ゆれ(「お客様」と「顧客」など)の統一や、読みにくい文の書き直しを任せられます。
骨子づくりでは、たとえば次のような指示を出します。
次の商談メモをもとに、提案書の骨子を作ってください。
・章立ては「現状の課題」「解決の方針」「具体的な内容」「進め方とスケジュール」「体制」の5章にしてください
・各章で伝えることを2〜3行で書いてください
・商談メモに書かれていないことは推測で埋めず、「要確認」と書いてください
最後の一行が大切です。生成AIは、材料にないことも、もっともらしく補ってしまうことがあります。「書かれていないことは要確認と書く」と指示しておくと、人が確かめるべき箇所が見えるようになります。
人が残すべき工程
一方で、次の判断は人が持ち続けます。
- 何を一番の提案にするか:顧客の課題のどれに重点を置くか、競合とどう差をつけるかは、商談の空気や顧客との関係を知っている営業担当の判断です。
- 自社が約束できるか:納期・体制・性能など、提案書に書いたことは約束になります。技術的に実現できるか、人員を確保できるかは、技術担当や上長が確かめます。
- 金額:見積の金額は、後で詳しく述べるとおり、生成AIに考えさせません。
- 承認:最終的に顧客へ出してよいかの判断は、社内の承認の流れに沿って人が行います。
総務省・経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版)でも、生成AIの生成物には誤解を招くものや他者の知的財産権を侵害するものが含まれうることに留意し、利用に際して人間の判断を介在させるなどの対策を講じるよう示しています。提案書づくりでいえば、上の表の「人が残すこと」が、人が判断する場所にあたります。
過去の提案書・見積を使える状態にする準備
生成AIに良い下書きをつくらせるには、自社の過去の提案書を材料として渡す必要があります。ところが、提案書づくりの相談を受けて実際の保管状況を見せていただくと、過去の提案書が担当者のPCやメールの添付ファイルにしか残っていないことが少なくありません。これでは、生成AI以前に、人が探すことも難しい状態です。
ベテランが良い提案書を書けるのは、過去の案件を覚えていて、似た事例をすぐに引き出せるからです。過去の提案書を全員が探せる状態にすることは、その経験を若手にも使える形にすることでもあります。
置き場所を一つに決める
まず、提案書と見積書の正本を置く場所を一か所に決めます。共有フォルダでも、社内で使っている文書管理の仕組みでもかまいません。大切なのは「最終版はここにある」と全員が分かることです。
- 顧客に提出した最終版だけを、決めた場所に置きます
- 作成途中の版は、別のフォルダか個人の作業場所に置き、正本の場所には入れません
- 過去の提案書は、全件を一度に集めようとせず、直近1〜2年分や、受注した案件の分から集めると始めやすくなります
命名と版を整理する
同じ案件の提案書が「最終」「最終2」「最終_修正版」と並んでいると、どれが顧客に出したものか分からなくなります。ファイル名の付け方を決めておきます。
- 例:「提出日_顧客の業種_案件の種類_版」(20260915_製造_生産管理刷新_v3 のような形)
- 顧客名をファイル名に入れるかどうかは、後で述べる社外秘の扱いと合わせて決めます
- 提出後に差し替えた場合は、古い版を正本の場所から外します
古い版と新しい版が両方残っていると、生成AIも古い版を参考にして下書きをつくってしまいます。版の整理は、人が探す場合にも生成AIに使わせる場合にも効いてきます。
提案書に付けておく情報
ファイルそのものに加えて、次のような情報を一覧(表計算のシートなど)にして提案書ごとに付けておくと、似た事例を探しやすくなります。
| 付けておく情報 | 例 |
|---|---|
| 業種・規模 | 製造業、従業員100名程度 |
| 顧客の課題 | 受注情報の二重入力、営業ノウハウの属人化 |
| 提案の内容 | 業務システムの刷新、生成AIによる下書き作成 |
| 結果 | 受注・失注・保留と、分かっていればその理由 |
| 担当者 | 作成した営業担当・技術担当 |
とくに「結果」は大切です。受注した提案書と失注した提案書が区別されていなければ、生成AIは両方を同じように参考にします。失注の理由が分かっていれば、同じ失敗を繰り返さない材料にもなります。
社外秘の扱いを決める
過去の提案書には、顧客の社名、担当者名、取引の条件、顧客の内部事情など、外に出してはいけない情報が含まれています。材料として使う前に、次のことを決めておきます。
- 社内の誰が、どの提案書を見てよいか(部署・役職で分けるか、営業部門全員に公開するか)
- 他の顧客向けの提案書に流用してよい部分と、してはいけない部分(顧客固有の情報や、守秘義務のある内容)
- 生成AIのサービスに入力してよい情報の範囲(次の章と「顧客情報を入力するときのルール」で詳しく述べます)
社内の提案書を根拠に下書きをつくる仕組み
過去の提案書が整ってきたら、生成AIがそれを検索して参考にできる仕組みを考えます。毎回、人が似た提案書を探して生成AIに貼り付けるのでは、手間がかかるうえに、探す人の経験によって結果が変わってしまうためです。
社内の文書を検索し、その内容を根拠に生成AIが答える仕組みはRAG(検索拡張生成)と呼ばれます。提案書づくりで使う場合は、たとえば次のような使い方になります。
- 「製造業向けに、在庫管理の課題を扱った過去の提案書を探して、提案の要点を並べてください」
- 「この商談メモに近い過去の案件を3件挙げて、それぞれの提案内容と結果を示してください」
- 「過去の提案書で、データ移行の進め方をどう説明しているか、表現の例を出してください」
前述のAI事業者ガイドラインでも、RAGの活用などによって、誤った出力(ハルシネーション)の抑制や、出力の根拠の透明性の向上が期待されると注記されています。どの提案書を参考にしたかが示されれば、営業担当はその提案書を開いて確かめることができます。
ただし、同じガイドラインは、RAGを使うと回答が似た方向にまとまりやすくなるため、多様性や独創性が求められる業務には向かない場合もあると注意しています。提案書でいえば、過去の提案書をなぞるだけでは、顧客ごとの課題に合わない、どこかで見たような提案になりかねません。過去の事例は「材料と表現の参考」として使い、何を提案の柱にするかは人が決める、という分担を崩さないことが大切です。
社内文書を検索させる仕組みの作り方、読ませる文書の整理、アクセス権限の扱いは、RAG導入の進め方で詳しく説明しています。提案書は顧客ごとに見てよい人が限られる文書なので、権限の扱いはとくに先に決めておく必要があります。
見積の数字は生成AIに作らせない
提案書と一緒に出す見積書について、「生成AIに金額まで出させたい」という要望を聞くことがあります。しかし、見積の金額は生成AIに考えさせるべきではありません。
生成AIに金額を任せない理由
- もっともらしい数字をつくってしまう:生成AIは文章を自然につなげる仕組みのため、根拠のない金額でも、それらしい形で出力することがあります。
- 計算を間違えることがある:数量×単価の積み上げや、値引き・端数処理を含む計算は、計算の仕組みに任せる方が確実です。
- 根拠を説明できない:顧客から「この金額の内訳は」と聞かれたとき、生成AIが出した数字では答えられません。
- 単価や条件は変わる:仕入価格や人件費、値引きの条件は時期によって変わります。最新の単価表に基づかない金額は、利益を削るか、顧客の信頼を損ないます。
金額を間違えたときの影響は、文章の言い回しを間違えたときよりはるかに大きくなります。提案書の本文は生成AIに下書きさせても、金額は別の仕組みで出す、と分けて考えます。
積算ルールを仕組みにする
見積を速くしたいなら、生成AIに頼る前に、積算のルールを決めて、計算を仕組みにする方が効果的です。ベテランの頭の中にある「この規模ならこの工数」「この条件ならこの係数」を書き出し、誰が計算しても同じ金額になる状態をつくります。
| 整えるもの | 内容 |
|---|---|
| 単価表 | 製品・部材・作業ごとの単価。改定日と、誰が改定するかを決めます |
| 数量・工数の出し方 | 規模や仕様から数量・工数を出すときの目安と係数 |
| 値引き・割増の条件 | 数量割引、短納期の割増、継続取引の条件など。誰が承認するかも決めます |
| 端数処理と税の扱い | 切り上げ・切り捨ての単位、税込・税抜の表記 |
ルールが決まれば、計算は表計算や見積システムに任せられます。ただ、単価表が担当者ごとのExcelに分かれていて、どれが最新か分からない状態であれば、まずそこを一つにまとめる必要があります。表計算での管理に限界を感じている場合は、Excel管理の限界とシステム化の判断も参考にしてください。
そのうえで、生成AIには金額の「周り」を任せます。
- 見積の前提条件を拾い出す:商談メモや顧客の要望書から、数量・仕様・納期など、積算に必要な条件を抜き出させます。足りない条件を一覧にさせると、確認漏れを防げます。
- 見積の説明文を書く:計算の仕組みで出た金額と内訳をもとに、「作業範囲」「前提条件」「含まれないもの」を説明する文章を下書きさせます。
- 前回の見積との違いを示す:同じ顧客への前回の見積と比べ、変わった項目を書き出させます。
私たちが支援した医療卸の基幹システム刷新でも、見積・受発注・請求をそれぞれ独立に管理していた状態から、工程単位で業務を棚卸しし、一つのデータ基盤の上に再構築しました。見積を速く正確にする近道は、生成AIの前に、見積の情報とルールを一か所に集めることです。
顧客情報を入力するときのルール
提案書づくりで生成AIを使うと、顧客の社名、担当者名、商談の内容など、顧客の情報を入力する場面が必ず出てきます。ここは、使い始める前にルールを決めておくべきところです。
個人情報保護委員会の生成AIサービスの利用に関する注意喚起等(令和5年6月2日)では、事業者が生成AIサービスに個人情報を含む指示を入力する場合、その個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内かを十分に確認するよう求めています。また、本人の同意なく個人データを含む指示を入力し、そのデータが応答の出力以外の目的で扱われる場合には法令違反となる可能性があるとして、サービスの提供事業者がそのデータを機械学習に利用しないことなどを十分に確認するよう示しています。
提案書づくりに当てはめると、少なくとも次のことを社内で決めておく必要があります。
- 使ってよいサービス:入力した内容を学習に使わない設定や契約になっているか、データの保存期間や保存場所はどうかを確認したサービスに限ります
- 入力してよい情報:顧客の担当者の氏名や連絡先は入力しない、社名は業種に置き換える、などの決まり
- 顧客との契約の確認:秘密保持契約で、顧客から受け取った資料を外部のサービスで扱うことが制限されていないか
- 出力の確認:生成AIの下書きを顧客に出す前に、誰が、何を確認するか
個人情報や契約の解釈について判断に迷う場合は、社内の法務担当や弁護士などの専門家に確認してください。生成AIの利用ルール全体の決め方は、中小企業の生成AI社内ルールの作り方で扱っています。
進め方と効果の測り方
提案書づくりへの生成AIの導入は、いきなり全社で始めるより、小さく試して効果を確かめながら広げる方がうまくいきます。
4つの段階で進める
| 段階 | 主な作業 | 次へ進む条件 |
|---|---|---|
| 1. 準備 | 対象にする提案の種類を決め、今の作成時間を測り、過去の提案書を集めて整理します | 対象と、今の時間が数字で分かっていること |
| 2. 試行 | 2〜3名の営業担当で、ヒアリング整理・骨子・本文の下書きに生成AIを使います | 1件あたりの作成時間が見込みどおり減ること |
| 3. 仕組み化 | 指示文のひな形を共有し、過去の提案書を検索できる仕組みを整えます | 試行した担当者以外も同じように使えること |
| 4. 拡大 | 対象の部署や提案の種類を広げ、見積の積算ルールの整備も進めます | 拡大した範囲でも効果と品質が保てること |
最初の対象には、件数が多く、ある程度型が決まっている提案(定型の保守契約の更新、標準的な製品の導入提案など)が向いています。どの業務から手を付けるかは、作業を分けて「手間×頻度×価値」で比べると決めやすくなります。比べ方はAI化する業務の洗い出し方で紹介しています。
効果は何で測るか
効果は、始める前に測り方を決めておきます。決めずに始めると、「便利になった気がする」という感想だけが残り、続けるかどうか判断できません。検証が本番に進まずに止まる典型的な形で、AIのPoC止まりの原因と本番移行の条件でも詳しく扱っています。
| 指標 | 測り方 |
|---|---|
| 1件あたりの作成時間 | 依頼を受けてから提出できる状態になるまでの時間を、導入前後で比べます |
| 提案の件数 | 同じ人数で、月に何件の提案を出せたかを比べます |
| 一人で作れた割合 | 若手がベテランに頼らずに提案書を仕上げられた件数の割合を見ます |
| 手戻りの回数 | 上長の確認で差し戻された回数や、修正の量を見ます |
| 受注率 | 参考として見ます。価格や競合など他の要因も大きいため、これだけで判断しないことが大切です |
一番測りやすく、効果も見えやすいのは「1件あたりの作成時間」です。導入前に、直近の数件について、工程ごとにどれだけ時間がかかったかを記録しておくと、どの工程で時間が減ったかまで分かります。
製造業の企業で、営業ナレッジの共有と提案準備の自動化を支援した例では、メール返信の下書き、提案骨子の自動生成、商談前に必要な情報の自動整理を行い、ベテランに偏っていたノウハウを全員が使える形にしました。若手も早くから提案を担えるようになって提案の量と速度が上がり、ベテランは新規開拓に時間を使えるようになっています。取り組みの概要は支援実績で紹介しています。
使い始めた後に、一部の人しか使わなくなることもよくあります。現場に定着させる工夫は、生成AIが社内で定着しない理由と対策をご覧ください。
まとめ:提案書は生成AIで速く、金額と判断は人と仕組みで
- 提案書づくりは、ヒアリング整理、骨子づくり、過去事例探し、本文の作成、見積の積算、体裁の調整、確認・承認の7工程に分けて考えます。
- 生成AIに任せやすいのは、材料がそろっていてまとめるのに時間がかかる工程です。何を提案の柱にするか、自社が約束できるか、承認するかは、人が判断します。
- 過去の提案書は、置き場所を一つに決め、命名と版を整理し、業種・課題・結果などの情報を付けておくと、人も生成AIも使えるようになります。
- 見積の金額は生成AIに作らせず、単価表や係数などの積算ルールを決めて、計算の仕組みに任せます。生成AIには前提条件の抜き出しや説明文の下書きを任せます。
- 顧客情報を入力する前に、使ってよいサービス、入力してよい情報、契約上の制限を社内で決めておきます。
- 効果は、1件あたりの作成時間を中心に、導入前に測り方を決めてから確かめます。
提案書づくりのどの工程から生成AIを使うか、過去の提案書をどう検索できる形にするかといった検討から、仕組みの構築までご相談いただけます。進め方を考えている段階でも、AI開発の支援の内容をご覧ください。
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