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DX担当を任されたら何から?最初の90日の進め方

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株式会社Riize Advisors 代表取締役 細倉 尚将

株式会社Riize Advisors 代表取締役

細倉 尚将

外資系コンサルティングファームにてM&A戦略・新規事業立案等に従事した後、株式会社Riize Advisorsを創業。コンサルタントとエンジニアのチームで、AI・システム開発を構想から実装・運用まで支援している。

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「社長から『うちもDXをやれ』と言われたが、何をすればよいのか分かりません」「担当は自分一人で、IT部門と呼べる組織もありません」「まずは流行りのツールを入れればよいのでしょうか」。DX担当を任された方から、こうした声をよく伺います。この記事では、DX担当になって最初の90日ほどで取り組むことを、経営者との合意、現場の困りごとの集め方、業務の棚卸しと優先順位の付け方、最初の1件の選び方、社内の巻き込み方、外部の使い方、避けたいことの順にお伝えします。

最初にやることの答え:ツールを選ぶ前に3つ

DX担当を任されて最初にやることは、ツールを選ぶことではありません。次の3つを、この順に進めることをおすすめします。

  1. 経営者に期待を言葉にしてもらう:何のためにDXをするのか、いつまでに何が変わっていればよいのかを、経営者と合意します。
  2. 業務を棚卸しして、困りごとを数字にする:現場の手間がどこにどれだけかかっているかを、時間や件数で把握します。
  3. 小さく1つ成果を出す:効果を数字で決めた1件に絞って取り組み、結果を社内に示します。

この3つを先に済ませると、どのツールやシステムが必要かは、後から自然に決まります。逆に、ツールから入ると「入れたが使われない」「効果が説明できない」という状態になりやすくなります。

DXは、データとデジタル技術を使って業務や事業のやり方を変える取り組みです。最近は生成AIをはじめとするAIの選択肢が増え、業務の進め方そのものをAIを前提に考え直せる場面も増えています。それでも出発点は変わりません。「何を変えたいか」と「今どうなっているか」を押さえることが先です。

DXの成果を測れていない企業は多い

DXに取り組む企業は増えていますが、成果を把握できている企業ばかりではありません。IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2026」では、DXに取り組む企業のうち成果指標を設定している企業は4社に1社にも満たないとされています。成果指標を設定していない理由では、「評価指標の設定方法がわからない」が36.0%で最も多くなっています。

同じ調査では、DXの成果が出ている企業の特徴として、経営者・IT部門・業務部門の協調が挙げられています。協調が「十分にできている」「まあまあできている」と答えた割合は、成果が出ている企業で72.9%、成果が出ていない企業で37.1%でした。

DX担当の最初の仕事は、まさにこの2点を整えることだと言えます。成果を何で測るかを決めること、そして経営者と現場の間をつなぐことです。

最初の2週間:経営者と合意すること

「DXをやれ」という指示の中身は、経営者によって大きく違います。人手不足を補いたい、残業を減らしたい、新しい売上をつくりたい、古いシステムが心配だ、など、思い描いていることはさまざまです。ここを確かめないまま動き出すと、後で「そういうことを期待していたのではない」と言われかねません。

最初の2週間ほどで、経営者と次の4点を話し合っておくことをおすすめします。

合意すること確認の仕方の例
目的「1年後に何が変わっていれば、DXをやってよかったと思いますか」と聞きます
期間最初の成果をいつまでに見たいかを決めます。最初は3か月ほどを目安にすると、区切りを付けやすくなります
予算の目安金額を最初から決めきる必要はありません。「小さく試す段階」と「本格的に広げる段階」で分けて、それぞれ誰が判断するかを決めます
権限現場へのヒアリングを依頼できること、業務のやり方を試しに変えられること、外部に相談できることを確認します

目的は、できるだけ数字に近い言葉にしてもらいます。「業務を効率化したい」だけでは、何をすれば達成なのかが分かりません。「受注処理の残業をなくしたい」「問い合わせへの返信を当日中にしたい」のように、業務と結びついた言葉にすると、後の優先順位の判断に使えます。

予算は、最初から大きな枠を確保するよりも、段階ごとに判断する形が進めやすいはずです。小さく試して効果が見えた段階で、次の投資を判断すれば、経営者も決めやすくなります。

話し合った内容は、1枚のメモにまとめて経営者に確認してもらいます。口頭の合意だけだと、時間が経つうちにお互いの理解がずれていくためです。

3〜6週目:現場の困りごとを集める

経営者の期待が分かったら、次は現場です。DX担当が一人で考えた施策は、現場から見ると「余計な仕事が増えた」と受け取られることがあります。現場の困りごとから出発すると、取り組みへの協力も得やすくなります。

ヒアリングの質問例

部署ごとに、実際に作業をしている人へ30分〜1時間ほど話を聞きます。「何か困っていることはありますか」と聞くだけでは、具体的な答えは返ってきにくいものです。次のように、作業そのものを聞く質問が役に立ちます。

  • 毎日・毎週・毎月、決まって行っている作業は何ですか。
  • その作業に、1回あたりどれくらいの時間がかかっていますか。
  • 同じ内容を、別の画面やファイルに入力し直している作業はありますか。
  • Excelや紙で管理していて、探すのに時間がかかっているものはありますか。
  • 特定の人しか分からない、その人が休むと止まる作業はありますか。
  • ミスが起きやすく、確認や手直しに時間を取られている作業はどれですか。
  • 繁忙期や月末に、特に手が回らなくなる作業は何ですか。
  • 「これがなくなれば楽になる」と思う作業を1つ挙げるとしたら、何ですか。

ヒアリングでは、解決策ではなく作業と手間を聞くことに集中します。「AIで何とかなりませんか」「新しいシステムが欲しい」という声が出ても、まずはその背景にある作業を聞き出します。

Excelでの管理が限界に近づいている業務が見つかることも多いはずです。どの段階でシステム化を考えるかは、Excel管理の限界とシステム化の判断で詳しく説明しています。

5〜8週目:業務を棚卸しして優先順位を付ける

ヒアリングで集めた内容を、業務の一覧にまとめます。業務を「受注処理」のような大きな単位のままにせず、「注文メールを確認する」「受注内容を基幹システムに入力する」「在庫を確認する」のように、作業の単位まで分けるのがポイントです。大きな単位のままでは、どこに手間がかかっているのか、何を変えればよいのかが見えないためです。

手間×頻度×価値で評価する

作業ごとに、次の3つの観点で評価します。

観点見ること
手間1回あたりにかかる時間、関わる人数、ミスの手直しにかかる時間
頻度1日・1週・1か月に何回発生するか
価値改善したときに経営者の目的にどれだけ近づくか(残業の削減、対応の速さ、売上への影響など)

手間と頻度を掛け合わせると、その作業に月に何時間かかっているかが分かります。そこに、経営者と合意した目的への近さを掛け合わせて比べます。厳密な点数でなくても、3段階程度で評価するだけで、取り組む順番はかなり見えてきます。

評価するときは、AIで支援できるかどうかも候補として見ておきます。書類の読み取りと入力、問い合わせへの回答案の作成、社内文書の検索、報告書の下書きなどは、生成AIやAI-OCRで手間を減らせる可能性がある作業です。一方で、AIを使うことを先に決めて業務を探すと、順番が逆になります。あくまで、手間×頻度×価値で上位に来た作業について、「この作業はAIやシステムで変えられないか」と考える流れにします。業務の洗い出しとAIの向き不向きの見極め方は、AI化する業務の洗い出し方で手順を説明しています。

最初の1件の選び方

優先順位の上位から、最初に取り組む1件を選びます。最初の1件は、社内に「DXで本当に変わる」と示すための取り組みでもあります。次の条件がそろうものを選ぶと、成果を出しやすくなります。

  • 効果を数字で示せる:作業時間、件数、待ち時間など、前後で比べられる数字があります。
  • 範囲が小さい:1つの部署、1つの業務の流れで完結します。
  • 協力してくれる人がいる:その業務の担当者が、変えることに前向きです。
  • 失敗したときの影響が限られる:元のやり方に戻せます。

候補になりやすいのは、次のような取り組みです。

候補の例向いている場面
特定の業務での生成AIの活用文章の作成や要約、問い合わせへの回答案づくりが多い場合
紙やPDFの書類の読み取りと入力注文書・請求書などを手で入力している件数が多い場合
Excelや紙の管理からクラウドのツールやシステムへの移行同じ情報を何度も入力し直している、最新版が分からない場合
二重入力をなくすための連携複数のシステムやファイルに同じ内容を入れている場合

生成AIを使う場合は、社員が入力してよい情報の範囲を先に決めておく必要があります。決め方は中小企業の生成AI社内ルールの作り方で扱っています。

取り組む前に、効果の目標を数字で決めておきます。「受注入力にかかる時間を月に何時間減らす」「返信までの時間を何時間以内にする」といった形です。数字が決まっていれば、試した後に続けるか、やり方を変えるか、やめるかを判断できます。AIの検証が本番に進まない原因の多くも、ここが決まっていないことにあり、AIのPoC止まりの原因と本番移行の条件で詳しくお伝えしています。

9〜13週目:小さく試して結果を示す

最初の1件に取り組み、結果を経営者と社内に報告します。報告では、決めておいた数字が前後でどう変わったかを中心に伝えます。うまくいかなかった点や、現場から出た声もあわせて伝えると、次の取り組みに生かせます。

90日の進め方の目安

ここまでの流れを表にまとめます。期間はあくまで目安で、会社の規模や業務の状況によって前後します。

期間の目安主な作業この段階の成果物
1〜2週目経営者と目的・期間・予算の考え方・権限を合意します合意した内容をまとめたメモ
3〜6週目部署ごとに現場へヒアリングし、困りごとと手間を集めます業務と困りごとの一覧
5〜8週目業務を作業単位に分け、手間×頻度×価値で評価します優先順位を付けた業務の一覧
8〜9週目最初の1件を選び、効果の目標を数字で決めます取り組む内容と目標の数字
9〜13週目小さく試し、結果を測って報告します結果の報告と、次に取り組む候補

90日が過ぎたら、優先順位の一覧に戻り、次の取り組みを選びます。1件ずつ成果を積み上げていくと、社内の協力も得やすくなり、取り組みの範囲を少しずつ広げられます。

社内の巻き込み方

DX担当が一人の場合、すべてを自分でやろうとすると続きません。社内の協力をどう得るかも、最初の90日で考えておきたいことです。

  • 経営者から社内に伝えてもらう:DXの目的と担当者を、経営者の言葉で社内に伝えてもらいます。担当者が言うだけでは、現場が協力する理由になりにくいためです。
  • 部署ごとに協力者を決める:各部署で業務に詳しく、変えることに前向きな人に声をかけます。ヒアリングの調整や試行の相談相手になってもらいます。
  • 現場の手間を減らす話から始める:「DXのために協力してほしい」ではなく、「この作業の手間を減らしたい」と伝えます。
  • 途中経過をこまめに共有する:ヒアリングの結果や優先順位を、決まる前から共有しておくと、後から「聞いていない」となりにくくなります。

成果が出たときは、担当した現場の人の名前とともに社内に紹介します。「自分たちの業務が楽になった」という実感が、次の取り組みへの協力につながります。

外部の使い方:何を頼み、何を社内に残すか

社内にITやAIに詳しい人がいない場合は、外部の力を借りるのが現実的です。ただし、すべてを外部に任せると、取り組みが終わった後に社内に何も残らないことがあります。頼むことと社内に残すことを分けて考えます。

外部に頼みやすいこと社内に残したいこと
業務の棚卸しや優先順位付けの進め方の支援何を目的にするかの判断
AIやシステムでできることの見極め、方式の比較効果の目標の数字と、続けるかどうかの判断
システムやAIの仕組みの開発業務のやり方を変える決定と、現場への説明
開発の進捗管理(PMO)の支援業務の知識と、取り組みの記録

判断と業務の知識は社内に残し、作業や専門的な検討は外部に頼む、という分け方が基本です。外部の人と一緒に実務を進めながら、やり方を社内に残していく形をとると、次の取り組みからは社内で回せる部分が増えていきます。私たちも、外部の専門人材が実務を通じて社内に手法を残す支援を行っており、その例は支援実績で紹介しています。

開発会社に依頼する段階になったら、依頼の内容を文書にまとめると、提案を比べやすくなります。まとめ方は中小企業向けのRFPの書き方で、受け取った見積もりの見方はシステム開発の見積もりが妥当かの確かめ方で説明しています。社内にエンジニアがいない状態から開発の体制をつくる場合は、エンジニアがいない会社の開発体制のつくり方も参考になるはずです。

やってはいけない3つのこと

最後に、DX担当になったばかりの時期に避けたいことを3つ挙げます。

ツール導入を目的にする

「他社が入れているから」「展示会で良さそうだったから」とツールから選ぶと、使う場面が決まらないまま契約だけが残ることがあります。ご相談を受ける中でも、「ツールは入れたが、使われていない」というところから話が始まる例は少なくありません。ツールは、業務の困りごとと効果の目標が決まった後に選びます。生成AIのツールを入れたのに定着しない場合の見直し方は、生成AIの導入が定着しない原因と対策で扱っています。

全社一斉に始める

全部署で同時に新しいやり方を始めると、うまくいかなかったときに原因が分からず、現場の負担も一度に大きくなります。最初は1つの部署、1つの業務から始め、成果を確かめてから広げる方が、結果的に早く進みます。

成果指標を決めずに始める

効果の目標を数字で決めずに始めると、取り組みが終わっても、成果が出たのかどうかを誰も説明できません。経営者に次の投資を相談するときにも、判断の材料がありません。先に紹介した調査のとおり、成果指標を設定していない企業は多く、だからこそ最初から数字を決めておくことが、DX担当にとって大きな助けになります。

まとめ:DX担当の最初の90日は「合意・棚卸し・1件の成果」

  • DX担当を任されたら、ツールを選ぶ前に、経営者との合意、業務の棚卸し、小さな成果1件の順に進めます。
  • 経営者とは、目的・期間・予算の考え方・権限の4点を話し合い、1枚のメモにして確認します。
  • 現場には、解決策ではなく作業と手間を聞き、業務を作業単位に分けて手間×頻度×価値で評価します。AIやシステムで変えられるかは、上位に来た作業について検討します。
  • 最初の1件は、効果を数字で示せて範囲が小さく、協力者がいる業務を選び、目標の数字を決めてから始めます。
  • 判断と業務の知識は社内に残し、作業や専門的な検討は外部に頼むと、取り組みが社内に根付きます。

DXの進め方や最初に取り組む業務の選び方に迷われている段階から、ご相談いただけます。業務の棚卸しから一緒に進める支援については、コンサルティングの支援内容をご覧ください。

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